感覚器官とその付属器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/13 06:02 UTC 版)
眼(目、め、英: eye、羅: oculus) 魚類の眼には涙腺がなくレンズが球形で、角膜(かくまく、英: cornea)に接近して位置する。 網膜にうまく像を結ぶため、硬骨魚類ではレンズ牽入筋(レンズ収縮筋)の作用でレンズを後方に移動させる。いっぽう軟骨魚類ではレンズは正常な位置で遠くを見るようになっており、近くを見るときはレンズ牽入筋の働きで前方に移動させる。 瞳孔(どうこう、英: pupil) または 瞳(ひとみ) レンズの前面に虹彩(こうさい、英: iris)があり、その中央部に円形の瞳孔が位置する。多くの硬骨魚類の瞳孔の大きさは明るさによって変化しない。 虹彩皮膜(こうさいひまく) コチ科魚類(マゴチなど)などにある瞳孔の上部に延長している虹彩の膜。 魚類錐体モザイク(ぎょるいすいたい-、英: fish cone mosaic) 魚類が持つ、錐体細胞の配置が高い規則性を示す網膜モザイク(もうまく-、英: retinal mosaic。網膜上の錐体細胞や桿体細胞の規則的配列のこと)。例えば、ゼブラフィッシュの網膜では青、赤、緑、紫外線の各波長に感度のピークを持つ4種の錐体細胞が二次元周期的に現れる、正方格子状のパターンがみられる。 鎌状突起(れんじょうとっき、かまじょうとっき、英: falciform process、羅: processus falciformis) 魚類の眼球にあり、レンズの遠近調節を司る膜状組織。毛様体と同じような働きをする。脈絡膜の一部から突出する眼状体で、やや曲がった先端(ハラー鈴状体)がレンズの中に入っている。鎌状突起内部には平滑筋のレンズ牽入筋があり、この収縮により、レンズは網膜に近づく方向に移動するので遠方に視度を調節できる。ハラー鈴状体(-れいじょうたい、羅: campanula Halleri) 鎌状突起の曲がった先端にある部分。膨れて丸みがある。 眼瞼(がんけん、英: eyelid) サメ類にあり、そのためサメの眼はアーモンド形をしている。瞬皮(しゅんひ) サメ類の眼の下にある未発達の眼瞼。 瞬膜(しゅんまく、英: nictiating membrane、羅: membrana nictitans) または 第三眼瞼(だいさんがんけん、英: tertial palpebra, third eyelid) 眼窩内にある角膜の上を覆う1枚の皮膚の皺。異物が目に接近したときに使われる。ネコザメ、トラザメ、オナガザメなど多くの板鰓類がもつ。 瞬膜腺(しゅんまくせん、英: gland of nictiating membrane) 瞬膜の下、眼の内角に開口する涙腺状の腺。瞬膜が発達している動物に顕著。涙腺と同じように液体を分泌し眼球の表面を潤して角膜と瞬膜との摩擦を緩和する。 脂瞼(しけん、英: adipose eyelid) 眼を覆う半透明の襞。泳ぐ際に頭まわりの水流を変えて水の抵抗を減らす。イワシ、アジ、ボラ、コイ、サバ類などにある。 鼻(はな、英: nose、羅: nasus) 脊椎動物の嗅受容器。顎口類胚においては神経板の出現前後に体先端の神経板の前端付近で、正中線の左右で表皮の一部が鼻プラコード(はな-、英: nasal placode, olfactory placode、羅: lamina nasalis)としてともに著しく肥厚する。 円口類では鼻プラコードは腺性下垂体(下垂体前葉)のプラコードとともに鼻下垂体という正中単一の原基として発し、これに由来する嗅覚器官はさらに落ち込み、鼻管という盲管を形成する。ヌタウナギ類はさらにこれが咽頭に通ずる。板鰓類では鼻は吻下面にあり、口腔と連絡する。他の魚類では両側に鼻孔があるが、口腔と連絡せず、外鼻孔のみを持つ。 鼻孔(びこう、英: nostrill, nares, (複:naris)、独: Nasenloch) 多くの魚類では外鼻孔のみで内鼻孔はない。内鼻孔(ないびこう、英: internal nostrill, internal nares) 口や喉の中に開く鼻孔。ハイギョなどごく一部の原始的な硬骨魚類では内鼻孔があり、鰾で空気呼吸する。 外鼻孔(がいびこう、英: external nostril, external nares) 吻にあり、外界に開く鼻孔。円形または裂孔状で2対からなる。種によっては1対のものもいる。鼻管の先に開くこともある。 2対あるうち前のものを前鼻孔(ぜんびこう)、後ろのものを後鼻孔(こうびこう)といい、においを溶かした水は前鼻孔から入り後鼻孔から出る。 鼻腔(びこう、びくう、英: nasal cavity、羅: cavum nasi、独: Nasenhöhle) 多くの魚類では表皮下に形成された袋状のくぼみにすぎず口や喉に通じない。嗅板(きゅうばん、英: olfactory lamina) 嗅房の中に10枚ほどある、ハート形をした嗅覚器官。表層には嗅覚細胞がある。濁った環境では索餌、索敵などに重要な働きを示す。嗅板の数、配列状態は分類形質となる。 嗅房(きゅうぼう、英: olfactory rosettes) 嗅板が一定の方式で並んで形成する。 鼻管(びかん、英: nasal tube) 体表に突き出た小管。先端に鼻孔が開く。 鼻弁(びべん) 鼻への水の出入りを調整する。 嗅窩(きゅうか、英: olfactory pit, nasal sac) または 鼻窩(びか、英: nasal pit、羅: foveanasalis) 鼻プラコードの陥入の結果生じた小孔。その一部は嗅上皮を形成する。円口類では無対の嗅窩が正中部に存在する。魚類においては有対の嗅窩がサメ・エイ・ハイギョ類では腹側に、チョウザメ・真骨類では背側にある。内鼻孔類では嗅窩は口陥(こうかん、英: stomadeum)の天蓋に接して口鼻膜(こうびまく、英: oronasal membrane)を形成し、それが開通することにより内鼻孔が生じる。 嗅囊(嗅嚢、きゅうのう、英: olfactory sac) 円口類の嗅受容器。円口類では鼻孔は1個で頭部の正中線上に開き、ここでは1本の鼻管が鼻囊を作っている。ヤツメウナギ類では鼻囊の中間に嗅囊が開口している。ヌタウナギ類でも同様の嗅囊を持つ。 鼻囊(鼻嚢、びのう、英: nasal capsule) 円口類の1本の鼻管が作る軟骨性の包被。ヤツメウナギ類では鼻囊が体前端部の背側にある鼻孔に開孔し、先端は脳の下側付近で盲端に終わり、下垂体道(かすいたいどう、独: Hypophysengang)となる。鼻囊の中間には1対の嗅囊が開口し、その後方壁には嗅神経が分布する。ヌタウナギ類では同様の嗅囊を持つが、鼻孔(鼻囊の開口部)は体の前端にあり、下垂体道は食道の前端、前腸に通じている。 側線器官(そくせんきかん、英: lateral-line organ) または 側線器(そくせんき) 水生脊椎動物(無顎類、魚類、両生類の幼生、水生両生類)の体表にみられる特殊な機械受容器。側線管器と遊離側線器の2種類に分けられる。どちらも基本構造は同じである。感覚細胞とゼリー状のクプラに包まれた有毛細胞とからなる。(仲間、餌、敵などによって生じる)水流や水圧、低周波の音(350Hz以下)、温度変化を受容する。これらの外界の物理的刺激でクプラが曲がると、感覚毛のうちの運動毛を通じて感覚細胞が刺激を受け、興奮する。側線器に生じた刺激は体側では後側線神経(顔面神経に付随している)、頭部では前側線神経(迷走神経に付随している)を通じて延髄に達する。これは脊髄神経によるものではない。側線管器(そくせんかんき) または 側線器(そくせんき) 側線管と呼ばれる管や溝が皮下を縦走し、遊離感丘(大孔器)が皮下に埋もれて管状器官の中に収まり、所々で側線孔という小管で外部に開孔する。 遊離側線器(ゆうりそくせんき、英: free lateral-line organ) 体表に線状もしくは点状に存在し、体の比較的表層に孤立した遊離感丘が頭部から尾部に並ぶ。 側線(そくせん、英: lateral line) 遊離側線器が外見的に形成するもの。普通、体の中央部の各側に1本あるが、2,3,5本など多数の側線を持つものがある。頭部や体側の側線の走り方や側線数は分類上重要な特徴となる。 感丘(かんきゅう、英: neuromast, sense hillock) または ニューロマスト(英: neuromast) 側線器官の末梢器官。遊離感丘、孔器、管器に分けられる。構造は同一で数個の有毛細胞を中心として有毛細胞と支持細胞からなり、神経は有毛細胞にシナプス構造を形成して接続する。有毛細胞には1本の運動毛と数十本の不動毛がある。遊離感丘(ゆうりかんきゅう) または 大孔器(だいこうき) 体表に存在する感丘。 孔器(こうき、英: pit organ) 孔状になっている感丘。体表の皮膚の中に点在する器官。側線のクプラ、感覚網、感覚細胞のセットが表皮中にある。魚類の孔器の中には1価の陽イオンに反応するものがある。 管器(かんき、英: canal organ) 皮下に埋没し1本から数本の管状になってその中に存在する感丘。側線のクプラ、感覚網、感覚細胞のセットが皮膚の中に陥入し管の中にある。隣り合う感丘の中間から枝管が出て側線孔により外界に通じている。種によっては側線孔に粘液が詰まっている。 有毛細胞(ゆうもうさいぼう、英: stereocilium) 側線器官を構成する細胞。有毛細胞には求心性神経と遠心性神経のどちらも分布しているが、後者は前者に対し抑制的に作用する。孔器と管器では2個の有毛細胞が運動毛の局在に対して対をなし、1本の神経線維により支配されている。遊離感丘の場合は必ずしもそうはなっていない。また内耳にも有毛細胞がある。 運動毛(うんどうもう、英: kinocilium) 有毛細胞にある1本の毛。絨毛構造を示し、運動方向と神経の興奮とに一定の関係があることが明らかになっている。運動毛の周期的運動により膜電位も同様に周期的に変化し、マイクロフォン電位を発生する。2個の細胞が同一繊維により支配されることからマイクロフォン電位は刺激の半分の周期を持つことになり、2倍の周波数を持つ神経電位を生ずることがある。 頭部感覚管(とうぶかんかくかん、英: cephalic sensory canal) 眼の周囲、下顎、鰓蓋、頭部背面などにある側線器官。眼上管(がんじょうかん) 眼の上部にある頭部感覚管。 眼下管(がんかかん) 眼の後方から下方にある頭部感覚管。 鰓蓋下顎管(さいがいかがくかん) 鰓蓋前部から下顎に伸びる頭部感覚管。 前額把握器(ぜんがくはあくき) ギンザメ類が持つ小棘を帯びた軟条突起。交尾の際に鉤着器として用いる。 電気受容器(でんきじゅようき、英: electroreceptor) 水生動物の体表にあり、体外の電場に対する受容器。魚類では円口類、軟骨魚類(ローレンツィニ器官)、硬骨魚類にみられる。ローレンツィニ器官(-きかん、ロレンチーニ器官、英: Lorenzini's organ) または ローレンツィニ瓶器(-びんき、英: Lorenzini's ampulla)、膠質管(こうしつかん、独: Gallertrohr) 板鰓類の吻部、頭部側面に分布する皮膚感覚器の一種。体表に無数の開口部を持つ細管が集合して瓶部を作り、中に受容細胞を持つ。元来機械受容器である側線器官の一種で、機械的刺激にも応じる。 電気的な受容器としての感度は0.1μV/cmにも達し、サメやエイでは餌となる魚の運動に伴う活動電位にも反応するため、捕食に利用できるとされる。ゴンズイにも類似した器官があることが知られている。 (弱電気魚における)電気受容器(でんきじゅようき、英: electroreceptor) デンキウナギ目のギュムノートゥス科(Gymnotidae)、アロワナ目のモルミルス科(Mormyridae)とジムナーカス科(Gymnarchidae)の淡水魚は弱電気魚とよばれる。このうち Eigenmannia virescens(アイゲンマニア) は尾部に発電器を持ち250-600Hzの放電を行って体周辺に電場を作り、伝導体や不導体が近づいた際の電場の乱れを体表にある電気受容器で検出する。 この電気受容器は側線器の変形したものでローレンツィニ器官とはやや異なる。皮膚の開口部は持たず、皮下に埋没している。放電の頻度は種によって異なるものの、電気の感受性は0.1-100μV/cmの範囲内にあると考えられている。 形状により瓶器(びんき、英: ampullary organ)、瘤状器(こぶじょうき、英: tuberous organ)またはその中間型が区別される。モルミルス科では瓶器、クレノン器、モルミロマストの3種類の受容器があり、それぞれ異なった形態と機能を持つ。この魚の菱脳背側にはきわめてよく発達した電気感覚葉がみられ、3種の受容体からの情報はそれぞれ特定の領域に入力する。 サヴィ器官(-きかん、英: Savi's vesicles) シビレエイ類の頭部にある電気器官の周囲の表皮下に多数集まる触感器の一種。完全に閉じた2-3mmの径を持つ全体を薄膜(クプラ)で包まれた有毛の感丘3個とそれを包む細胞からなる。発電機能を持つほかの魚類には存在しない。 ウェーバー器官(-きかん、英: Weberian apparatus) または ウェーベル氏器官(-し・きかん) 鰾と内耳を連絡する4小骨片からなる聴覚器官(機械受容器官)。ネズミギス目と骨鰾上目(コイ目、ナマズ目、デンキウナギ目)にみられる。これらは椎骨と肋骨に由来し、四肢動物の耳小骨とは異なる。鰾が受けた圧力波は鰾が接続するウェーバー器官に伝わり、更にリンパ液に満たされた無対洞、横行管を通って左右の内耳の小囊に伝達される。これによって小囊内の耳石が振動し、小囊斑が刺激され刺激され、鰾が受けた圧力波が知覚される。
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