房中術 房中術と道教

房中術

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/25 23:01 UTC 版)

房中術と道教

『漢書』「芸文志」では医術と神仙術の中間に位置するものとして房中術は一家をなしていたが、そのあとを受け継ぐ図書目録である『隋書』「経籍志」では一家を立てておらず、付録されている道教書の解説「道経」に「房中十三部、三十八巻」と記載されており、後漢末の頃から次第に房中術を含む方術は、道教に属するものとみなされるようになっていった[4]。道教における房中術は長生術のひとつである。その目的は精を愛(お)しみ気を蓄えることで延年益寿・不老長寿を目指すことにあった[9]

後漢から三国にかけて房中術は方術の一つとして流行しており、『後漢書』には方士の伝記が集められている。そこにみられる左慈は『全三国文』(『典論』)8巻論郤倹等事[10]曹植の『弁道論』[11]においては房中術をよくしたとされている。方士は初期道教が成立すると次第にそこに受け入れられることとなった。後漢末には最初の道教教団である太平道と五斗米道が興り、太平道はすぐに滅びたが五斗米道は方術による教化をはかった。五斗米道では房中術は黄赤の道とも呼ばれ、入信儀礼であると同時に男女陰陽の気の交流と天地の気を交わらせることによる一種の救済儀礼でもあった[4]東晋葛洪は『抱朴子』で不老長生の術を著し、外丹の服用に最上の価値を置いた。行気や房中術は外丹には及ばないが治病長生の効果があるとした。房中術については、人は陰陽の交わりを絶ってはならず、陰陽が交わらなくなると気が滞り病気になりやすく長生できなくなると、その効果を説いている。『抱朴子』に引かれている十種類の房中書は散佚してしまったが、その一部が馬王堆文献や日本の『医心方』と六朝期の道士である陶弘景の養生書『養性延命録』に引用されている。代の医家・道士の孫思邈が百九歳の時に書いたとされる医薬養生書『千金要方』は薬の処方や養生術を説いており、房中については特に四十歳以上の人には欠かせないものだとしている。その要点は、淫蕩に耽って快楽を追い求めるようなことはせず、節制して養生と体力の強化に努め、交わるには女性を心ゆくまで楽しませ補益することであると書かれている[3]

道教内では新天師道を創始した北魏寇謙之は房中術を否定するなど、その扱いは一様ではなく[4]、本来の意図から外れて淫猥に流れやすいことから実際にそのような行動を起こすこともあったらしく[9]、肉体を不浄として性欲に否定的な仏教側からの批判や宋代の儒家の認識の変化などの社会情勢によって、房中術は道教でも表立って行われなくなっていき一部に秘術として残るだけになっていった[3]


  1. ^ 繋辞上伝「易有太極、是生兩儀」。本田済『易』朝日新聞社〈朝日選書〉、1997年。 
  2. ^ 繋辞下伝「男女構精、萬物化生」。本田済『易』朝日新聞社〈朝日選書〉、1997年。 
  3. ^ a b c d e f 土屋英明『道教の房中術』文藝春秋〈文春新書〉、2003年。 
  4. ^ a b c d e 坂出祥伸『道教とはなにか』中央公論新社〈中公叢書〉、2005年。 
  5. ^ 天師道と房中術 Tianshi-dao and the Sexual Art
  6. ^ ファン・フーリック『古代中国の性生活』せりか書房、1988年。 
  7. ^ 離婁上篇「孟子曰、不孝有三、無後爲大」。小林勝人・訳注『孟子 (下)』岩波書店〈岩波文庫〉、1979年。 
  8. ^ 大形徹『不老不死 仙人の誕生と神仙術』講談社〈講談社現代新書 1108〉、1992年。 
  9. ^ a b 野口鐵郎、坂出祥伸、福井文雅、山田利明『道教事典』平河出版社、1994年。 
  10. ^  曹丕 (中国語), 全三國文/卷8#.E8.AB.96.E9.83.A4.E5.84.89.E7.AD.89.E4.BA.8B, ウィキソースより閲覧。 
  11. ^  曹植 (中国語), 曹子建集/卷十#.E8.BE.AF.E9.81.93.E8.AB.96, ウィキソースより閲覧。 
  12. ^ a b 野口鐵郎・主編『講座 道教 第三巻 道教の生命観と身体論』雄山閣出版、2000年。 
  13. ^ a b c 李遠国『道教と気功』人文書院、1995年。 
  14. ^ 福井康順、山崎宏、木村英一、酒井忠夫『道教 第二巻 道教の展開』平河出版社、1983年。 
  15. ^ 張有寯主編『実用中国養生全科』地湧社、1991年。 


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