悪性腫瘍
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癌の成長
藤田哲也は「末期癌の患者の体内では、数千個から数兆個に及ぶ癌細胞が『制御の効かない過剰な生長』を続け、正常な組織や細胞を圧殺する」「『過剰な生長』という現象こそが、癌が宿主を苦しめ、死に至らしめる最大の要因である」「『過剰な生長』は癌の最も重要な性質の一つであり、悪性腫瘍に本質的なものだ」と書いた[43]。
大阪大学医学系研究科甲状腺腫瘍の研究班は「甲状腺がんにおいて、転移能・浸潤能など立派にがんとしての性質を持っていながら、なぜかある程度で成長が止まってしまい、一生患者に悪さをしないものが多数存在することが証明されるようになった」「これらのがんを若年型甲状腺がんと呼ぶ。このようながんをあまり早い時期に見つけてしまうと、患者に本来不要であった手術を施してしまうことになる。これを『過剰診断』と呼ぶ」「小さな甲状腺がんは10代の後半からちらほら出現し、20代で急速にその頻度が増加し、30代中ごろには中高年とほぼ同じ頻度になる。すなわち、超音波でしかわからないような甲状腺がんは子供のうちからできるが、その多くは途中で成長が止まり、臨床的ながんにまで進展しない」「小さな甲状腺がんは10年単位でしか成長せず、しかも若年者ではある程度成長するが、高齢になると完全に成長を止める。また、経過観察された千人以上の患者のうち、甲状腺がんが原因で死んだ人は一人もいなかった。すなわち、これらのがんが悪性化することはない」と発表した[44]。
予防
子宮頸癌は発癌リスクを軽減できるHPVワクチンが日本でも認可された。胃癌はヘリコバクター・ピロリを除菌することにより、発癌リスクを軽減できることが報告されている。B型肝炎はエンテカビルによりHBVウイルスを減少させることで、C型肝炎はインターフェロン療法によりHCVを駆除することにより、発癌リスクを軽減できることがわかっている。
がん予防10か条(世界がん研究基金)
2007年11月1日、世界がん研究基金とアメリカがん研究協会によって7,000以上の研究を根拠に「食べもの、栄養、運動とがん予防」[45]が報告されている。これは1997年に公表され、日本では「がん予防15か条」と呼ばれていた4500以上の研究を元にした報告の大きな更新である。
- 肥満:BMIは21-23の範囲に。推薦:標準体重の維持。
- 運動:毎日早足で30分以上歩くか、それに相当する身体活動をする。慣れてきたら毎日60分以上の中程度の身体活動か、30分以上のかなり激しい身体活動をする。
- 体重を増やす飲食物 推薦:高エネルギーの食べものや砂糖入り飲料やフルーツジュース、ファーストフードの摂取を制限する。飲料として水や茶や無糖コーヒーが推奨される。
- 植物性食品:毎日、少なくとも600グラムの野菜や果物と、非でんぷん性多糖類を摂取し、毎日少なくとも25gの食物繊維を摂取する。推奨:毎日400グラム以上の野菜や果物と、精製度の低い穀物と豆を食べる。精白された穀物は制限する。
- 動物性食品 赤肉(牛・豚・羊)を制限し、加工肉(ハム、ベーコン、サラミ、燻製肉、熟成肉、塩蔵肉)は避ける。赤肉より、鶏肉や魚が推奨される。赤身肉は週300グラム以下に。推奨:赤肉は週500グラム以下に。乳製品は議論があるため推奨されていない。
- アルコール(お酒) 男性は1日2杯、女性は1日1杯まで。
- 保存、調理:塩分摂取量を1日に5グラム以下に。推奨:塩辛い食べものを避ける。塩分摂取量を1日に6グラム以下に。カビのある穀物や豆を避ける。
- サプリメント:サプリメントには頼らず、食事のみで栄養を満たす。
- 母乳哺育 6か月間、母乳のみで育てる。
- がん治療後:生存者は、栄養、体重、運動について、訓練を受けた専門家の指導を受ける。
喫煙は肺、口腔、膀胱がんの主因であり、タバコの煙は最も明確に多くの部位のがんの原因であると強調。また、タバコとアルコールは相乗作用で発癌物質となる。
がん対策の目標(健康日本21-日本厚生労働省)
2000年、厚生労働省の健康日本21[46] によってがん対策の目標が提唱されている。
- 喫煙が及ぼす健康影響についての知識の普及、分煙、節煙
- 食塩摂取量を1日10g未満に減らす
- 野菜の平均摂取量を1日350g以上に増やす
- 果物類を摂取している人の割合を増やす
- 食事中の脂肪の比率を25%以下にする
- 1日に約60g以上飲酒する人を減らす。「節度ある適度な飲酒量」は「約20g」
- がん検診。胃がん、乳がん、大腸がんの検診受診者の5割以上の増加
日本人のためのがん予防法(国立がん研究センター)
国立がん研究センターがん予防・検診研究センター(現・社会と健康研究センター)は日本人にとって優先度の高く、予防効果が確かな要因に絞って内容を取りまとめ、2006年に「日本人のためのがん予防法」を提言した[47]。以下は2017年8月1日改訂版における6つの推奨項目である[48]。
喫煙 | たばこは吸わない。他人のたばこの煙を避ける。 |
飲酒 | 飲むなら、節度のある飲酒をする。 |
食事 | 偏らずバランスよくとる。 |
身体活動 | 日常生活を活動的に。 |
体形 | 適正な範囲内に。 |
感染 | 肝炎ウイルス感染検査と適切な措置を。機会があればピロリ菌検査を。 |
がんを防ぐための新12か条(がん研究振興財団)
1978年、日本の国立がんセンター(現・国立研究開発法人 国立がん研究センター)は学問的に常識とされていた知見を踏まえ、カレンダーの12か月に合わせて「がんを防ぐための12ヵ条」を提唱した[49][50]。当時としては科学的に妥当な提言であったが、その後の研究で「かび」や「日光」、「焦げ」の暴露を避けるべきとされていた要因について、発がんリスクの上昇が認められるまでに必要な曝露量や避けた場合に予防可能ながんの割合という観点から見直しがなされ、上述の「日本人のためのがん予防法」の内容を含め、2011年にがん研究振興財団が「がんを防ぐための新12か条」として改訂版を公表した[47]。たばこについての記述を禁煙と受動喫煙の2項目設けたこと、早期発見を掲げたことや正確な情報を入手することに言及している点でも改訂前と異なる[49]。
- たばこは吸わない
- 他人のたばこの煙を避ける
- お酒はほどほどに
- バランスのとれた食生活を
- 塩辛い食品は控えめに
- 野菜や果物は不足にならないように
- 適度に運動
- 適切な体重維持
- ウイルスや細菌の感染予防と治療
- 定期的ながん検診を
- 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
- 正しいがん情報でがんを知ることから
がん検診
診断
「がん」の診断には2つの状況がある。一つは臨床診断(特に病理検査)と、もう一つは集団検診(がん検診; 術後検診を含む)である。がんを根治する上で重要な点は自覚症状がない段階での「早期発見」と「全摘出手術の可能性検証」が挙げられる。言い換えると、集団検診と臨床診断とが効果的に機能して初めて、がん治療が成功に導かれる。また全摘出手術が困難な状況において、がんの種類によって異なる有効な治療法を選択する目的でも、臨床診断は重要である。
検診の方法としては、X線撮影、超音波検査、コンピュータ断層撮影(CT)、核磁気共鳴画像法(MRI)、ポジトロン断層法(PET)、骨シンチグラフィ[51]、消化器への内視鏡検査[52]がある。
一方、全摘出手術が成功した場合においても、再発がん、二次性がんの発生の懸念があるため、その局面においても術後定期検診は重要になる。
細胞診断・生検組織診断
「がん」の組織は顕微鏡下での観察、すなわち検鏡によって、形態から鑑別される。判定像では多くの分裂中の細胞が観察され、細胞核のサイズや形状はばらばらであり、(分化した)細胞の特徴が消失している。これらは細胞診でも生検組織診でも確認できる特徴である。組織診では正常な組織構造が失われている点や、周囲の組織(が一緒に採取されていれば、そこ)と腫瘍との境界が不明瞭であることが観察される。
生検組織診は、過形成、異形成、上皮内癌と浸潤癌との鑑別に有用である。
進行度
「がん」の進行度を表すものとして「TNM分類」や「ステージ分類」がある。
TNM分類
「T(tumor、腫瘍)」、「N(nodes、所属リンパ節)」、「M(metastasis、遠隔転移)」の3つの観点から進行度を分類したもの。T1~4、N0~3、M0~1の組み合わせで表現する。
ステージ分類
TNM分類を元に、がんの進行度と広がりの程度を合わせて表すことができるように、と新たに作成された。臨床に沿った分類であり、「臨床進行期分類」と呼ばれる。
ステージ0(上皮内癌)〜ステージIVの五段階で分類される。個体としての死を迎えた段階で体内には1kg前後のがん細胞が生成されている[53]。
- ステージ0 がん腫瘍が上皮内にとどまっている。リンパ節への転移はない。
- ステージI がん腫瘍が広がっているが、筋肉層でとどまっている。リンパ節への転移はない。
- ステージII がん腫瘍が筋肉層を超えて浸潤しているがリンパ節への転移はない。または、腫瘍は広がっていないが弱若リンパ節への転移が見られる。
- ステージIII がん腫瘍の浸潤が大きくなり、リンパ節に転移している。
- ステージIV がん腫瘍がはじめにできた原発巣を超えて、他の臓器に転移(遠隔転移)している。ステージIV(ステージ4)は末期がんとは異なり様々な治療法が存在し、医療の進歩によりその選択肢も増えている[54]。
TMN分類と同様に、臓器別に細かく分類されているため、上記の分類から更に詳細に分類される場合がある。胃がんの場合は、TNM分類との対比で以下のように定義されている[55]。
NO リンパ節転移がない |
N1 胃の領域リンパ節(※)のうち、 1~2個に転移している |
N2 胃の領域リンパ節のうち、 3~6個に転移している |
N3 胃の領域リンパ節のうち、 7個以上に転移している |
M1 胃の領域リンパ節以外の リンパ節に転移している | |
---|---|---|---|---|---|
T1a (M) 胃の粘膜に限局している |
IA | IB | IIA | IIB | IV |
T1b (SM) 胃の粘膜下層に達している |
IA | ||||
T2 (MP) 胃の筋層に達している |
IB | IIA | IIB | IIIA | |
T3 (SS) 胃の筋層を越え、 漿膜下層に達している |
IIA | IIB | IIIA | IIIB | |
T4a (SE) がんが漿膜を越え、 胃の表面に出ている |
IIB | IIIA | IIIB | IIIC | |
T4b (SI) がんが胃の表面に出たうえに、 他臓器にもがんが続いている |
IIB | IIIB | IIIC | IIIC |
※胃の近くにあって転移しやすいリンパ節のことで、日本臨床外科学会の『胃治療ガイドライン』では13個のリンパ節を「領域リンパ節」 としている。
注釈
出典
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悪性腫瘍と同じ種類の言葉
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