年
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 05:36 UTC 版)
紀年法
紀年法には、ある起点から期間を区切らず無限に年数が加算されていく紀元[42]、君主や統治者、その他さまざまな制限によって期限を区切られる元号[43]、一定の期間で循環する周期によって年を表わす方法[44]が存在する。周期による紀年法の例としては、古代ギリシアにおけるオリンピアード(オリンピア紀元)や[45]、干支などが挙げられる[46]。
現代においてはキリスト紀元(西暦)が最も多くの国で使われていて、国際標準化機構のISO 8601ではアラビア数字4桁で表記するよう定められている[2]。また、西暦と独自の紀年法を併記する場合がある[47]。新聞を例に取ると、例えば日本では西暦2020年に対して、元号を用いる「令和2年」[48]。ほかのアジア諸国では、中華民国(台湾)では「民国109年」(聯合報)、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)では「主体109年」(コリアンニュース)[49]、大韓民国(韓国)では「檀君紀元4353年」(朝鮮日報)、イスラム教国でもエジプト(アル・アハラム)やブルネイ(ブリタブルネイ)を例に取ると「ヒジュラ太陰暦1442年」[50]が併記される。
年初
現在の一年の始まり(年初・歳首[51])は元日(1月1日)であるが、これには天文学的または宗教・思想的な意味は無い[52]。グレゴリオ暦の基礎となったローマ暦では、紀元前735年に始まった当初、一年の始まりを現在の3月 (Martius) 初日に置いていた[53]。後にガイウス・ユリウス・カエサル(ユリウス・シーザー)がエジプトから導入した太陽暦へ切り替えた紀元前47年に、冬至に近かった 1月 (Januarius) の初日を一年の始まりと改めたことが現在まで引き継がれている[54]。日本語では暦月名は一月、二月、と序数で数え上げるが、西洋の暦の暦月名はそうではない。巡回する12の固有な名前の「どれが年初か」は必ずしも自明ではなく、Martiusを年初の暦月とするか、Januariusを年初の暦月とするかは自由度があるのである(これは曜日を数で数えない言語で「週」が日曜から始まるか月曜から始まるか議論があるのと似ている)。
しかし、文化圏や民族によって一年の始まりは様々であった。温帯地方では太陽運行上の節目に当る冬至や春分、または夏至(エジプトなど)、秋分(ユダヤ暦)を年初と置いていた。シュメールでは各都市ごとに暦が統一されていなかったため、年初も春分が多かったものの、夏至や秋分を年初とする都市も存在し[55]、春分近くを年初とする暦に統一されたのはバビロン第1王朝の時代だった[56]。古代ギリシア暦においても都市間で年初が異なることは同様であり、アテナイでは夏至基準、スパルタでは秋分を基準としていずれも次の新月を年初とした[57]。農業中心の社会ではローマ暦のように春を年初とみなす場合が多かった[25][58]。他の太陽暦でも、現在の9月11-12日を年初とするエチオピア暦[28]、8月26日から始まったパーシ暦[29]、現在の9月22-24日を年初としたフランス革命暦(1793年11月24日~1805年12月31日、元日に相当する日はヴァンデミエール(葡萄月)1日)もあった[59]。中国においても春秋戦国時代には周が冬至、楚が立冬、魏が立春を正月とするなど各国によってバラバラであったが、立春を年初とした秦が中国を統一し、漢の時代には立春を年初の基準とすることが定着した[60]。
中世ヨーロッパでは、基本的にユリウス暦を用いながらも、年初は地域によってばらばらだった。それらは主にキリスト教にとって重要な日を選び、イエス・キリスト生誕日であるクリスマスの12月25日、受胎告知の3月25日、そしてキリスト教で最も重視され太陽暦では固定できなかった復活祭[51]。1月1日を主の割礼祭として年初に据えることもあったが、一般的ではなかった[25]。
1564年にフランスのシャルル9世が、年初を冬至に近い[51]1月1日へ固定した[25]。当初これには国内の反発があったが3年後には議会で採択され正式に発令され、さらにこれは1582年のグレゴリオ暦採用時にも再度定められた[25]。しかしこの定めはキリスト教圏にすぐに広がったわけではなく、例えばイギリスが1月1日を年初としたのは1752年であった[51]。
その他の年
長大な時間
歴史学や天文学などにおいて、何かしらの概念に基づく長大な時間に対し固有名詞をつけて「何々年」と呼ぶ場合がある。古代ギリシアの哲学者プラトンは歴史とは循環するものと考え、『テアイテトス』にて、その周期を36,000年と試算した。36,000は「完全数」の名で呼ばれ、これは「プラトン大年(magnus Platonicus annus)」「大年(great year)」「プラトン年 (Platonic Year)」「プラトン的転回 (Platonic Revolution)」と呼ばれ[61]、地球を回る8天体(太陽と7惑星)が元の位置に戻るのに要する時間をいい、宇宙の更新が行われる聖なる周期と考えられていた。
現代では、歳差運動によって春分点が移動して一周する約26,000年に対し、「大年(great year)」 の名が与えられている[62]。さらに、太陽系が秒速200kmの速度で銀河系を一周する期間である約2億年も、銀河年 (Galactic year) という名称で呼ばれる[63][64]。
他の惑星の公転
年が地球の公転周期を基礎にしていることから転じ、他の惑星の公転周期についても「年」という表記が使われる。例えば「水星年」[65]、「火星の一年」[5][66]などである。このような用語を使う際、混同を避けるために地球の1年は「地球年」 (earth year) とも呼ばれる[65][67]。
天文単位の基準
ガウス年 : 2π / k = 約365.256 898日。k はガウス引力定数で k = 0.017 202 098 95(定義値)。かつては天文単位の換算などに使われた[68]。現在では(2012年8月以降)天文単位はガウス引力定数とは関係なく、正確に149 597 870 700 m と定義されている。
注釈
- ^ 日本においてグレゴリオ暦導入前に使用されていた天保暦などは太陰太陽暦のため、1年は12か月または(閏月を含む)13か月と一定ではない。
- ^ 古代バビロニアでは6か月を1年としていたという。そのため人の年齢は現在の倍以上で数えられた。聖書の登場人物が非常に長寿なのは、この習慣が反映したという説がある。(岡田ら (1994)、pp.300-301、太陰太陽暦、バビロニア暦)
- ^ この改暦のために90日もの閏日を設け、1年が445日となった。この年はアヌス・コンフシオニス(「乱年」の意味)と呼ばれた。(2005年の歴史/公益財団法人 国際文化交友会)
- ^ 日本では旧暦の明治5年12月3日を新暦の明治6年1月1日とし、これは明治改暦と呼ばれる。大隈重信の回顧録によると、これは月給制だった役人給与を、改暦で1か月を端折ることができ、当時逼迫していた財政を節約する狙いがあったという。(佐藤 (2009)、pp.55-56) また、旧暦の明治6年は閏年で13か月あったため、「2日間しかないために端折った明治5年12月分と、準備しないで良くなった明治6年の閏月分の、合わせて2か月分(の給与)を浮かした」とも言われる。(ブルーバックス「暦の科学」山崎昭、久保良雄 (1984)) なお、明治6年を西暦1873年とした改暦の置閏法の記述は、当時既に西洋で広まっていたグレゴリオ暦ではなくユリウス暦のものだったため(4年に1度の閏日を設けるのみ)、両者で食い違いが生じる西暦1900年を2年後に控えた1898年、明治政府は再度改暦を行い、グレゴリオ暦の置閏法に改めた (ブルーバックス「暦の科学」山崎昭、久保良雄 (1984))。従って、日本がグレゴリオ暦を採用したのは1898年ということになる。
出典
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品詞の分類
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