外交 外交の基本

外交

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/11 15:51 UTC 版)

外交の基本

情報収集活動

日々変化する国際情勢に対応するために、情報の収集、分析は外交には不可欠である。相手国のあらゆる分野の現状を把握することにより、外交交渉において相手国の外交官の言葉の背景や真意を推測することができ、交渉を進める上で優位に立つことができる。ほとんどの外務省は在外公館の大使駐在武官からの報告、マスメディアの報道、各国から提供される情報、情報機関から提供される情報などから、統一的に情報を収集し、分析を行っている。またシンポジウムなどにおける自国の国家戦略の広報や文化交流も外交における重要な役割の一つである。一方で機密情報の流出を防ぐ防諜も外交においては重要な情報活動の一部である。外交交渉時の秘密保持は常に好ましい対応であると考えられている。ただし、外交の民主的統制、および秘密外交の禁止の観点から、外交交渉の結果はすぐに公開されることとなる[30]

外交と戦争の違いと相互影響

戦争は対外政策の一部であるけれども外交ではない[4]。戦争というのは国家間の争点を武力によって解決しようとするものであるが、それに対して、外交は建前として国家間の争点を平和的に解決しようとするものなのである[4]

現代においては兵器の高額化や軍隊の大規模化、大量破壊兵器などの開発によって戦争のコストやリスクが飛躍的に高まっており、戦争に繋がる事件が発生しても、その戦争の発展を抑制しできるだけ外交交渉により解決しようとする傾向が強まっている。

1992年には冷戦終結後世界各地で増加しつつあった地域紛争を予防するための予防外交という概念が国連のブトロス・ブトロス=ガーリ事務総長によって提唱され、これを受けて国際連合保護軍マケドニア共和国に派遣され、また国際連合平和維持活動が大規模化・強化された。これによってマケドニアでは国際連合予防展開軍へ改組されたのち紛争の予防に成功したものの、ソマリア内戦UNOSOM II)やボスニア・ヘルツェゴビナ紛争UNPROFOR)では紛争の抑止に失敗し、国際連合ルワンダ支援団(UNAMIR)でもルワンダ虐殺を阻止することはできなかった[31]

とは言うものの、カール・フォン・クラウゼヴィッツは有名な『戦争論』において「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」とし、戦争を外交の一種とみなしたわけであり、軍事と外交は密接な関係にあり、歴史上多くの戦争は外交と連動して行われている[32]。利害調整のための討論や降伏勧告など、軍事と外交が交錯する領域はある。

現代においても軍事力は外交に大きな影響を及ぼしている。たとえば軍事演習や部隊配備による軍事プレゼンスは外交交渉に大きく影響しており、また実際に戦端が開かれれば軍事力の有無が国際関係を大きく変化させ、軍事的優位が外交的優位に繋がることもある。現実問題として軍事戦略と外交戦略は影響しあっており、軍事力によって相手国の存続を脅かすことは直接的な交渉材料となりうる。

外交と経済

経済上の利害は国益に直結するため、貿易の歴史において重要な外交課題となってきた。近年においても、グローバル化の急速な進展によって外交上非常に重要な議題となっている。またその内容もエネルギー保障・海洋資源・食料保障など多岐にわたる。例えば貿易収支悪化の是正のための関税引き上げ、貿易相手国に対する輸出の自主規制、内需拡大の要求などがある。経済支援や経済封鎖も外交上非常に大きな要素であり、相手国の経済を発展させることにより間接的に敵対勢力に対する包囲網を構築することや、見返りとして軍事的な支援を受けることもしばしば行われる。先進国政府が発展途上国政府に対し支出する政府開発援助は経済支援の一種であり、先進国が途上国政府に対し影響力を及ぼすための重要な手段となっている。

特定の資源を保有する国が資源輸出と外交的要求をセットにすることもある(資源ナショナリズム)。とくにエネルギー資源については世界経済の動向を左右するだけに、これを巡る外交的な駆け引きも国際関係上非常に重大なものになりつつある。

外交と国益

外交はその国の利益すなわち国益と不可分である。国益は、国家が政策を決定する基準ともされ[33][34]ハンス・モーゲンソウは、国家の外交政策は純粋な国益に基づいて決定されるべきであるとしている。

ソフトパワー

軍事力や経済力以外にも、音楽・文学映画などをはじめとする大衆文化やその国の政策、政治的価値観などに他国からの共感と好意を得ることで自国のイメージを向上させ、外交を有利に進めることも重視されつつある。これは軍事・経済力のようなハードパワーに対比して、ソフトパワーと総称される。こうしたソフトパワーを得るために、他国の市民に対し自国の広報を行うことをパブリック・ディプロマシーと呼び、重要な外交の一手段となっている[35]

イデオロギーと外交

各種のイデオロギーを掲げた国家が、それに基づいた外交を行うこともある。冷戦時には東西両陣営がそれぞれ共産主義資本主義を掲げて外交戦を繰り広げた。1950年代には植民地の独立が本格化するが、特に東側はこの動きを外交的に支援していた。一方1970年代後半以降、アメリカは人権民主化などを外交で積極的に主張するようになっていたが、冷戦の終結した1990年代以降、欧米や日本もこうした人権外交を主張するようになっていった。とくに政府開発援助は人権外交や民主化支援と組み合わされることが多く、この分野での改善が事実上援助の前提となっている[36]

外交儀礼

外交において敬称席次マナーなどに見られる国際儀礼(プロトコル、外交儀礼)は些細のように見えても、文化的、政治的な緊張を緩和させ、外交交渉をスムーズに進めるために、外交官に心得る事が要求されている。例えば国旗に関しては、国民国家の象徴であり、破損したものや汚れたものを使用してはいけない。この他にも各種国際儀礼が存在する。

外交官の席次に関しては、それまでのヨーロッパ内での慣習をもとに1815年のウィーン会議において外交席次規則が明文化され、1818年にはアーヘンにおいて弁理公使に関する附則が付け加えられる形で完成した。この席次規則は150年ほど継続し、1961年外交関係に関するウィーン条約および領事関係に関するウィーン条約が制定されたことで現行の規則となった[37]


注釈

  1. ^ 5世紀から6世紀のものとされる稲荷山古墳出土鉄剣に最古の日本語文字が刻まれている。北魏の僧が起こした修験道の目的の一つは当時の鉱山開発であった可能性もある。
  2. ^ 一方、欧州ではハプスブルク家が勢力を伸ばしていた。
  3. ^ オランダ東インドは1624年に明国台湾本島に安平古堡英語: Fort Orange)を設置しここをアジア貿易の拠点とした(のちの鄭成功の革命により一掃された)。
  4. ^ サトウは論文『英国策論』で明治維新を推進した。
  5. ^ 幕府がアメリカ公使を通じて発注した数隻の軍艦は、南北戦争の勃発や下関戦争の勃発による輸出差止めにより、明治維新が終わるまで日本に届かなかった。
  6. ^ 地球の表面積のうち陸地部分は約28.9%である。
  7. ^ 『国際知識及評論』は真珠湾攻撃が行われた1941年12月に廃刊。
  8. ^ 政府は強制的に殆どの綿花原料を輸出用等の綿製品製造に割り当てた[27]
  9. ^ 『外交評論』はのち『国際連合』として1948年まで、『世界とわれら』として1949年まで発行された。『日本外交文書』は1952年からは外務省編となり、現在も発行されている。他、『国連ジャーナル』も発行されている。
  10. ^ 論じた例:辻雅之 (2006年6月5日). “日本の外交、やっぱり「三流」?”. ビジネス・学習. All About. 2011年11月24日閲覧。

出典

  1. ^ [1]
  2. ^ [2]
  3. ^ 外交[要ページ番号]
  4. ^ a b c d e f g h 『日本大百科全書』【外交】
  5. ^ a b 「国際政治学をつかむ」p166 有斐閣 2009年11月30日初版第1刷
  6. ^ 「大使館国際関係史 在外公館の分布で読み解く世界情勢」p52 木下郁夫 社会評論社 2009年4月25日初版第1刷
  7. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p59 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  8. ^ 「近代ヨーロッパへの道」p224-225 成瀬治 講談社学術文庫 2011年4月11日第1刷
  9. ^ 「国際政治学をつかむ」p167 有斐閣 2009年11月30日初版第1刷
  10. ^ 「国際政治学をつかむ」p170-171 有斐閣 2009年11月30日初版第1刷
  11. ^ 「国際政治学をつかむ」p30-31 有斐閣 2009年11月30日初版第1刷
  12. ^ 「大使館国際関係史 在外公館の分布で読み解く世界情勢」p154-155 木下郁夫 社会評論社 2009年4月25日初版第1刷
  13. ^ 「大使館国際関係史 在外公館の分布で読み解く世界情勢」p71-72 木下郁夫 社会評論社 2009年4月25日初版第1刷
  14. ^ a b 「国際政治学をつかむ」p171 有斐閣 2009年11月30日初版第1刷
  15. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p84 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  16. ^ 「政治学の第一歩」p216 砂原庸介・稗田健志・多湖淳著 有斐閣 2015年10月15日初版第1刷
  17. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p130-132 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  18. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p164-165 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  19. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p166-169 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  20. ^ 日本の貨幣史
  21. ^ 香川敬三『岩倉公實記(上卷)』、62頁。1906年。
  22. ^ 国立公文書館「初の外国人受賞者」
  23. ^ 清水雅大「ナチズムと日本文化:― W・ドーナートにおける日独文化提携の論理 ―」『現代史研究』第61巻、現代史研究会、2015年、 1-15頁、 doi:10.20794/gendaishikenkyu.61.0_1ISSN 0386-8869NAID 130007412618
  24. ^ 帝国弁護士会
  25. ^ 大阪毎日新聞[3]。1918年(要登録)[リンク切れ]
  26. ^ 「日米新協定を綿業界は好感」 神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 綿織物業(2期第1-029) 大阪毎日新聞 1937.1.23 (昭和12)。
  27. ^ 「自主から強権へ統制完成に驀進」。 1938年6月。 神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 綿織物業(08-030) 大阪毎日新聞 1938.6.29 (昭和13)
  28. ^ 日本外交協会公式サイト
  29. ^ 政策研究大学院大学東京大学東洋文化研究所「日米関係資料集」
  30. ^ 「政治学の第一歩」p217 砂原庸介・稗田健志・多湖淳著 有斐閣 2015年10月15日初版第1刷
  31. ^ 「国際政治の基礎知識 増補版」p325-326 加藤秀治郎・渡邊啓貴編 芦書房 2002年5月1日増補版第1刷
  32. ^ 軍事力と現代外交 歴史と理論で学ぶ平和の条件[要ページ番号]
  33. ^ 国益」『国際政治事典』[要ページ番号]
  34. ^ 第14回 外交とは何か (PDF)”. 2011年11月24日閲覧。
  35. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p183-187 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  36. ^ 「国際政治の基礎知識 増補版」p260-264 加藤秀治郎・渡邊啓貴編 芦書房 2002年5月1日増補版第1刷
  37. ^ 「大使館国際関係史 在外公館の分布で読み解く世界情勢」p55-57 木下郁夫 社会評論社 2009年4月25日初版第1刷
  38. ^ a b 「現代国際関係の基礎と課題」内第4章「国際関係の法制度」瀬川博義 p79 建帛社 平成11年4月15日初版発行
  39. ^ 「大使館国際関係史 在外公館の分布で読み解く世界情勢」p94-95 木下郁夫 社会評論社 2009年4月25日初版第1刷
  40. ^ 「大使館国際関係史 在外公館の分布で読み解く世界情勢」p97 木下郁夫 社会評論社 2009年4月25日初版第1刷
  41. ^ 「現代国際関係の基礎と課題」内第4章「国際関係の法制度」瀬川博義 p80 建帛社 平成11年4月15日初版発行
  42. ^ 「国際関係・安全保障用語辞典 第2版」p339 小笠原高雪・栗栖薫子・広瀬佳一・宮坂直史・森川幸一編 ミネルヴァ書房 2017年11月20日第2版第1刷
  43. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p120-121 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  44. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p156 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  45. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p71 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  46. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p159 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷
  47. ^ 「国際政治の基礎知識 増補版」p315 加藤秀治郎・渡邊啓貴編 芦書房 2002年5月1日増補版第1刷
  48. ^ 「外交 他文明時代の対話と交渉」p164 細谷雄一 有斐閣 2007年12月30日初版第1刷






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