開発と配備の経緯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/08 09:52 UTC 版)
ソ連では、1960年代に大量配備した戦域弾道ミサイル複合9K72「エリブルース」の代替として1980年代初頭より9K714「オカー」を配備していた。これが1987年のINF条約により制限対象となったため、条約に抵触しない別の代替ミサイルが必要となった。1989年にはより射程の短い9K79-1「トーチカU」が実用化されたが、9K714を代替するためには長射程の非核弾頭型ミサイルが必要であった。 新しい戦域弾道ミサイル複合は9K720と名付けられ、9K79や9K714の開発で知られるコロムナ機械製作設計局(KBM)によって開発が主導された。ミサイル発射装置はヴォルゴグラードの中央設計局「チターン」、自動誘導装置はモスクワの自動化技術・水理学中央科学研究所(英語版)が受け持った。開発条件としては、特に核弾頭を搭載できないようにすること、その分命中精度を高めること、自動誘導装置を改良することなどが挙げられた。 ミサイルの開発はソビエト連邦の崩壊を経ても継続され、1996年には「イスカンデル」ミサイルの最初の発射がロシアのテレビで放送された。西側では1999年にこのシステムがロシア軍で運用段階に入ったと見ていたが、後に時期尚早だったことがわかった。 2004年9月、ロシア国防省高官らの会合で当時のプーチン大統領に2005年度の防衛予算の草案が報告され、セルゲイ・イワノフ国防相は新しい戦術ミサイルシステム「イスカンデル」の状態テストの完了について発言。2005年にこのシステムの大量生産に入り、年度末頃にはこの兵器を備えた部隊ができているだろうと話した。 2005年3月、ロシア防衛産業の情報筋はインテルファクスAVNに既存の「イスカンデルE」戦術ミサイルシステムに基づいた500 - 600kmの範囲への新しいミサイルの開発が可能であると話した。しかしながら、彼はそれには「最大で5、6年かかるかもしれない」と話した。 2006年には「イスカンデルM」戦域弾道ミサイル複合の量産が開始された。「イスカンデルM」は「イスカンデル」のロシア連邦軍向けの派生型で、最大500 kmの射程と480 kgの弾頭を持っている。 2007年には新しいミサイルシステム(発射装置も)であるR-500「イスカンデルK」巡航ミサイルの発射試験が行われた。 2008年11月、ロシアのメドヴェージェフ大統領は大統領就任後初となる年次教書演説で、NATOミサイル防衛システムを中和するために、もし必要なら、ロシアはNATO加盟国であるリトアニアとポーランドの間にあるロシア最西端の飛地カリーニングラード州に「イスカンデル」複合を配備するだろうと述べた。リトアニア政府は、少なくとも軍事演習時にはイスカンデルがカリーニングラードに持ち込まれており、最大射程が700kmに延伸された改良型はドイツのベルリン付近まで攻撃可能との見解を公表している。
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