論理解釈における沿革及び比較法の考慮
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/05 02:16 UTC 版)
「法解釈」の記事における「論理解釈における沿革及び比較法の考慮」の解説
既述のように、論理解釈において歴史的沿革や比較法学を考慮した解釈をすることができるが、その方法論を巡る問題がある。 例えば、日本の民法典は、主にドイツ民法草案を母体としてフランス法系の旧民法を根本的に改修したものであることは起草当事者の一致した見解であり、そこにドイツ法思想の民法解釈学ができる必然性があると指摘されている。この点、イタリア民法学が、フランス民法典を継受して成立したイタリア民法典を、ドイツ民法学説を継受して解釈し直したのとは事情が異なるとの指摘がある。 しかし、日本民法典においても、少なくとも部分的にはなおフランス法系の規定も残存しており、ドイツ法系とフランス法系の異質な規定が混在したために両者の矛盾が問題となって解釈者をしばしば悩ませた。そのために、この体系的な不調和を解釈によって是正して、民法をして「矛盾なき統一体」たらしめることが学説・判例の一大目標となった。ここにおいて、ドイツ法の学理を徹底してフランス法系を不純物として軽視する発想、むしろ旧民法を通してフランス民法典の方が主要な母体(母法)であるとしてドイツ法理論の排除を主張する発想、立法者はあえてフランス法的規定を残したのだから部分的には尊重されるべきとする折衷的発想、ドイツ法流の体系的な論理解釈を基礎に据えつつも、現代的な社会の変遷をより重視して、母法及び過去の歴史的沿革の極端な尊重に疑問を呈する発想、といった解釈態度の立場の違いが生み出されたのである。この問題は結局、歴史認識の違いもさることながら、日本民法典がドイツ法系のパンデクテン方式と法律行為理論を中核とする体系を組んでいることを軽視して個別の文理解釈及び其の母法・沿革に着目するのか、それとも重視してこれを生かした体系的な論理解釈を重視するのかという、法解釈の手法の違いによるものとも考えることができる。 詳細は「民法 (日本)#沿革」を参照 なお、同様の問題は、ドイツ法系の法律に英米法流の思想を接木して根本的改修を図った日本刑事訴訟法にも存在する。またドイツ民法典についても、ローマ法系とゲルマン法系の調和の問題がある。 注意すべきは、法解釈において沿革や外国法を研究するのは、あくまで自国法の解釈論を探求するためであって、必ずしも母法と同じような解釈を目指すべきことを意味するわけではないことである。例えば、ドイツ民法の更にその母法の一つである前述のプロイセン法典においては、基本的な考え方が根本的に異なるために、母法の一つではあっても、日本民法を考えるにあたってはほとんど参考にならないと指摘されるような場合がある。また逆に、フランス民法の解釈論においても、後続のドイツ法・スイス法等はしばしば参照されており、比較法学の成果を取り入れてこれらの法典が採用する立場を判例法上採用し、事実上自国法を死文化するといった事例も見られる。自然法論を正面から採らなくても、一国で妥当する法理は他国においても一定の限度で通用しうると考えられるからである(→#条理)。このように、当該法律の歴史的沿革とは直接無関係に外国法を参考にする解釈を比較法的解釈ということがある。
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