規則の変遷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/04 18:10 UTC 版)
1950年代後半から1960年代前半の米国においてジェット旅客機が運航を始めたころ、連邦航空局 (FAA) は最大離陸重量が最大着陸重量の 105 % を超過する航空機に燃料投棄システムの装着を義務付けていた。このためボーイング 707 や 727、ダグラス DC-8 は燃料投棄システムを備えている。これら機種は離陸直後に引き返さなければならなくなった際には、最大着陸重量を超過した分の燃料を投棄した後に着陸した。 1960年代にボーイングが 737 を、ダグラスが DC-9 を発表したが、これらの初期型はいずれも短距離専用で、搭載燃料も少なかった。このため燃料満載でも総重量が最大着陸重量を越えることはなく、いわゆる「105% ルール」を考慮する必要もなかったので、燃料投棄システムも持たなかった。ところがP&W 社が JT8D エンジンの高推力型派生モデルを次々と発表し、それらのエンジンを搭載した機種では飛行能力も向上し、大きな離陸重量を許容するようになった。これにより燃料をたくさん積んで長距離飛行が可能になったので、105% ルールに抵触するケースが生ずるようになり、製造中の機体にコストのかかる燃料投棄システムを取り付けなくてはならない事態となった。また、その後にもっと性能のよいエンジンが現れることを考慮して、FAA は 105% ルールを撤廃し、1968年に燃料投棄システムを必要とする条件の見直しを行った。新たに制定された連邦航空規則 (FAR) は、降着装置の強度よりも緊急着陸時の機動性を重視したもので、パート 25.1001 において、 最大離陸重量から、別途規定されたフラップ開度や推力等の条件における飛行(離陸、ゴーアラウンド、着陸など)からなる 15 分間の飛行に必要な燃料の重量を差し引いた重量において、 (ランディング・クライム)フルフラップ状態で一定以上の上昇勾配が得られる (FAR 25.119) (アプローチ・クライム)エンジン 1 基が動作しない状態で、且つフラップ開度をアプローチ設定状態において一定以上の上昇勾配が得られる (FAR 25.121 d) 上記条件を満たせば燃料投棄システムを装備する必要がなくなった。つまり緊急着陸に際して十分な上昇力さえ確保されていればよいというものになった。 ほとんどの双発ジェット機(737、DC-9 / MD-80、A320 シリーズ、および各種のリージョナルジェット)はこの条件に適合するので、燃料投棄システムを備えていない。出発空港に引き返して着陸しなければならない場合には上空旋回を行って燃料消費を待つ。直ちに着陸しなければならない事情がある場合には構わず着陸を強行する。ただし、現代の旅客機では重量オーバーでの着陸が可能なように設計されてはいるとはいっても、あくまで緊急時に限られ、その後には多くの項目にわたる点検や検査が待っている。報道等では、全ての航空機が燃料投棄システムを持っているかのような誤解があるようだが、このように実際にはほとんどの航空機は持っていない。 中・長距離用双発ジェット機である 767 や、A300 / 310 / 330 等は燃料投棄システムを持たなくともよいが、上空旋回だけで燃料を消費するにはかなりの時間を要するため、注文時のオプション扱いとなっている。3発および4発ジェット機では燃料搭載量が格段に多いので、最大離陸重量近くにおいて上記 FAR 25.119 (ランディング・クライム)の条件をクリアするのに難があり、このため燃料投棄システムを備えている。
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