英熟語と日本人
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/05 03:08 UTC 版)
外国語を初めて学ぶ者にとって、既知の単語の配列が別の意味をなす表現を身につけるには、それ自体一つのまとまりとして個別に暗記していくのが着実であり、より現実的といえる。機械翻訳の領域でもこの種の表現は、まとめて処理した方が効率がよいとされる。 特に英語からみて文化的にも言語学的にも距離のある日本語を母語とするものにとって、逐語訳しにくい表現は、英語を解釈する上でしばしば障壁となる。日本の中学・高校における英語科においては、英文を読む際、英単語を英和辞書で日本語の意味を調べ、それを既存の構文に当てはめて解釈していくのが伝統的な教育法である。この教育法では、逐語訳として対処しにくい表現を全て「英熟語」として固定的な訳をあてるのである。 英語学者の山口俊治は、受験勉強の際、英熟語として暗記すべき表現を著書の中で以下のように大別している。 そのまま意味が明白なもの“leave for …”(…へ向け出発する)、“above sea level”(海抜)などが該当する。 英熟語の中で最も易しい部類であるが、空所を補充する問題や、適切な語句の配列を答える問題などを解く際、暗記しておくと便利であるという。 元の意味が推察できるもの“find fault with …”(…のあらを探す、…を非難する)、“in sight”(視界に、間近で)などが該当する。 意味は容易に推察できるため、英熟語としては難易度は高くない。一方で、和文英訳の際などには、正確な用例を暗記する必要がある。 元の意味を感じ取れるもの“stand out”(際立つ)、“anything but …”(…のほかならなんでも)などが該当する。 2.と4.の中間的な表現。英熟語はこれに分類されるものが最も多いという。 ほぼ完全にイディオム化しているもの(完全イディオム)“put up with …”(…を我慢する)などが該当する。 意味を類推することがほぼ不可能であるため、非英語話者はこのままの形で暗記するほかない。試験においては、別の語句で言い換えさせる問題として問われやすいという。 基本的な理解を要するもの“with O …ing”〔付帯状況の構文〕、“A is no more B than C is D”〔いわゆるクジラの構文〕などが該当する。 訳出の際、文法的な理解を必要とする表現である。これだけを集めた「構文集」なる受験参考書も多く存在する。 こうした作業は、日本人が英語に接触して以降、連綿と集積し続けていたことであり、訳出しづらい表現も過去の訳例を引用することで、翻訳作業を省力化できる利点がある。しかし、一定の学習時間で記憶できる表現の数には限界がある。また、そもそもこうした逐語訳しにくい表現が全て辞書に収録されているとは限らず、瑣末な表現まで含めれば、むしろ辞書に掲載されていない表現の方が多いという。 受験英語においては、「客観的にみて本来熟語と呼べないものでさえ「公式」として取り上げていることが多い」という趣旨の指摘がなされることもある。また、極端な例ではあるが、日本における英語学習者 は、見慣れぬ表現にぶつかると、まず辞書で英熟語としての意味がないかどうか確認し、その後で単語同士の配列からなんとか適当な和訳を導きだすという本末顛倒な作業をしているという報告さえある。 上で挙げたような「英文解釈」について、漢文訓読法と比較され、これとの類似を指摘されることがある。そもそも「熟語」 という単語自体が、漢文を訓読する際の用語である。日本の英語教育における英熟語も、これと類似した展開をしているといえる。最近では、このような従来の慣習に引きずられた棒暗記に異議をとなえ、新しい英熟語の学習法を提唱する者も出てきている。 日本の英語教育に詳しい、評論家の副島隆彦は「この分類は本当はくだらない」と評し、英語の語彙における“熟語”という区分の存在自体が無意味であると主張している。
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