羽毛の進化史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/06 08:33 UTC 版)
羽毛の構造は、最初は単純な中空のフィラメント構造に始まり、しだいに複雑さを増していき、太くて頑丈な羽軸とメッシュ状の構造を持つ羽毛になっていったと考えられている。化石記録からは、羽毛が最初に備えた機能が保温であったことが推測されている。皮膚化石によると、大型のティラノサウルス類の体表は角鱗に覆われていたが、原始的なものでは体表は羽毛で覆われていたことが明らかになっている。このことは、大型のティラノサウルス類の体表は角鱗と羽毛の両方で覆われていたことを示すかもしれない。あるいはティラノサウルス類は現生のサイや象のように、幼体は保温のために繊維状の羽毛で覆われていて、成長するに従って羽毛を失っていったことを示しているのかもしれない。成長したティラノサウルスは現生のアフリカゾウとほぼ同じ体重になった。もしティラノサウルスが恒温動物であったならば、体表からは効率的に熱を放散する必要があった。羽毛の有無はこのことに大いに関係する。 祖竜類の最初期の羽毛はどの段階で獲得されたか、はっきりとはわかっていない。原始羽毛がどんなものだったのか、独立して複数の系統に現れたものなのかどうかは議論が分かれている。繊維状の体毛は翼竜にも存在する(ソルデス)。長い羽軸をもつ羽毛は鳥盤類のプシッタコサウルスとティアニュロングの標本でも確認されている。2009年、徐らはベイピアオサウルスの標本に残されていた表皮組織が、プシッタコサウルスや翼竜の体毛とよく類似している事実を指摘した。彼らはこれらの構造の全てが、おそらく三畳紀中期かそれ以前の鳥頸類、あるいはそれ以前の祖竜類の進化の早い段階での共通の祖先から受け継がれたものだ、と主張した。羽毛化石に共通する特徴と分岐系統の研究によって、多くの研究者は羽毛の発生は恐竜=鳥類の系統の中で一度きりであったという説(いわば“羽毛の単系統説” )に同意している。羽毛は後の鳥類に引き継がれた(二次的に羽毛を失った種類はいる)。研究者たちはこの理論をふまえ、たとえ羽毛が見つかっていない種類であっても、羽毛恐竜の系統上にあるならば、羽毛があったと想定するようになった。現生鳥類の個体発生の研究などから、羽毛の発達史はよく知られている。そのため、この理論は羽毛の痕跡が見つかっていない恐竜がどのような段階の羽毛を持っていたのかを推論するのに用いられる。 羽毛の印象化石はとても稀であり、羽毛が保存されるには特殊な堆積環境を要する。したがって、羽毛恐竜はわずかにしか確認されていない。系統分類をとおして、研究者は羽毛が保存されていなかった標本についても、羽毛の有無を推論することができるようになった。明らかに羽毛がないジュラヴェナトルを記載した研究者は、羽毛をもつコエルロサウルス類の分岐系統学的な研究を行った。ほとんど皮膚の印象化石が見つからなかった種類についても、ほかの羽毛恐竜との系統関係にもとづいて羽毛の存在を推論した。彼らは系統関係にもとづき、ヴェロキラプトルが羽軸つきの羽毛を持っていたと推論した。この予測はのちに実際の化石によって確かめられた。 現生鳥類の羽毛の個体発生の研究の成果と、恐竜=鳥類系統での羽毛の進化史の研究の成果とをあわせて、羽毛がどのような段階をふまえて現在の形質になったのかが示されている。羽毛の発達史は以下の段階に区分することができる。 一本の繊維状の形態 複数の繊維が根本で結合した形態 一本の太い繊維が途中で複数の繊維に分岐している形態 中心の太い繊維から数カ所で枝状に繊維が分岐している形態 膜状の組織の縁辺から複数の繊維が生えている形態 中心軸(羽軸)とそこから分岐した細かな突起がメッシュ状にかみ合っている形態。現生鳥類とほぼ同じ羽毛の形態。 中心よりややずれたところに羽軸をもつ、非対称形の羽毛。現生鳥類の風切羽と同様の形態。 飾り羽(飛翔や保温と関連しない、特殊化した形態)。 これら羽毛の発達史の各段階にもとづき、次に示す恐竜=鳥類の系統の中で、羽毛の発達史の各段階がどの系統に対応するのかを示す。分類名の横にある数字は上の各発達段階を示す。「s」は体がウロコ(scale)で覆われていたことを示す。羽毛恐竜だけではなく、皮膚の印象化石など表皮組織について情報がある恐竜も示す。 恐竜 鳥盤目 ヘテロドントサウルス科 (1) 装盾類 (s) 鳥脚類 (s) プシッタコサウルス科 (s, 1) ケラトプス科 (s) 竜盤目 竜脚形類 (s) 獣脚類 アウカサウルス (s) カルノタウルス (s) ケラトサウルス (s) コエルロサウルス類 ディロング (1) そのほかの ティラノサウルス類 (s) ジュラヴェナトル (s) シノサウロプテリクス (1) マニラプトル形類 テリジノサウルス類 (1, 2, 3) アルヴァレスサウルス (1) オヴィラプトロサウルス類 (4, 6) Paraves トロオドン科 (2, 4, 6) ミクロラプトル (2, 4, 6, 7) シノルニトサウルス (2, 3, 4) そのほかのドロマエオサウルス科 スカンソリオプテリクス科 (2, 5, 8) 始祖鳥 (4, 6, 7) ジェホロルニス (6, 7) 孔子鳥 (4, 6, 7) エナンティオルニス類 (4, 6, 7, 8) 真鳥類,新鳥類 (4, 6, 7, 8) ディスプレー用の羽毛は恐竜からも知られている。最も原始的な例はスカンソリオプテリクス科のエピデシプテリクスである。このディスプレー用の羽毛はとても長く、短い尾の先にリボン状に生えている。奇妙なことに、エピデシプテリクスには翼の役目を果たす羽毛が残っていなかった。このことは、彼らが鳥類の系統の中で二次的に飛翔能力を失ったか、あるいはディスプレー用の羽のほうが飛翔用の羽よりも先に進化したことを示していると考えられる。
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