第3章 生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例
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本法9条は、「女性が自己以外の女性の卵子〔中略〕を用いた生殖補助医療により子を懐胎し、出産したときは、その出産をした女性をその子の母とする。」と規定する。ここにいう「卵子」には、その卵子に由来する胚も含まれる。本条は、法制審議会中間試案の第1と同文である。 女性が本法がいう「生殖補助医療」を用いて代理懐胎し、子を出産したときに、その女性は本条の適用を受けるか。言い換えると、本条がいう「生殖補助医療」は、懐胎する女性自身の不妊治療のために行われるものであることを要するか。この問題は2020年11月19日の参議院法務委員会でも取り上げられた。発議者は、本条を、代理懐胎の場合を含めて出産した女性が子の母であることを確定させる趣旨の規定であり、前掲平成19年(2007年)最高裁判所決定を踏襲したものと解釈していた。発議者の解釈によると、本条は、本法第3章の題名にかかわらず、民法と異なる規律をするものではないことになる。 したがって、代理懐胎の依頼者が、代理母に出産してもらった子と実親子関係を持とうとすれば、特別養子縁組をするしかない。特別養子縁組をすることができるのは法律婚の当事者に限るから(民法817条の3第1項)、事実婚や独身の者が代理懐胎を依頼しても、日本政府が認める実親になることはできない。 本法10条は、「妻が、夫の同意を得て、夫以外の男性の精子〔中略〕を用いた生殖補助医療により懐胎した子については、夫は、〔中略〕その子が嫡出であることを否認することができない。」と規定する。ここにいう「精子」には、その精子に由来する胚も含まれる。本条の定める要件があると、夫は子との血縁関係がなくても嫡出を否認できなくなるという点で、本条は民法774条の特則に当たる。本条は、法制審議会中間試案の第2と概ね同内容を条文化したものであるが、同試案が所定の要件を充たす夫を「子の父とする」と端的に規定していたのに対し、本条は所定の要件を充たす夫が嫡出否認権を喪失する結果、法律上は子の父であることを争えなくなると間接的に規定している。これは、嫡出推定を受ける子の父子関係を、その子が第三者の精子を用いた生殖補助医療により懐胎されたか否かを問わず、嫡出否認の制度で一元的に決するためである。夫の同意の形式には特段の制限が設けられていない。一般社団法人日本生殖補助医療標準化機関が公表している「精子・卵子の提供による非配偶者間体外受精に関する JISART ガイドライン」は、実施医療施設の医師が夫婦に対して所定の説明を行った後、3か月の熟慮期間を置いた上で、夫婦の各自から署名捺印した同意書を同時に提出してもらう旨を定めている(2-4(1)①)。 本法第3章が施行されることにより、子を被告とする嫡出否認の訴えの攻撃防御の構造は次のようになる。 請求原因被告が出生したこと。 被告の出生日が、被告を出産した女性(以下、この段落で「母」という。)と原告との法律婚成立後201日以降、法律婚解消後300日以前であったこと。 原告が被告の出生を知ってから1年以内に本件訴えを提起したこと。 原告と被告との間に血縁関係がないこと。 抗弁母が被告を生殖補助医療により懐胎したこと。 母が生殖補助医療により懐胎することについて、原告が同意したこと。 再抗弁例その1原告が被告の懐胎前に母が生殖補助医療により懐胎することへの同意を撤回したこと。 再抗弁例その2母が原告との法律婚成立より前又は法律婚解消より後に被告を懐胎したこと。
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