秘密投票の形骸化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/14 08:44 UTC 版)
1991年以前のソビエト連邦をはじめとする東側諸国でも、憲法上は選挙における投票の秘密が保護されなければならないという規定が存在していた。しかし、投票において立候補者を信任する場合は受け取った投票用紙をそのまま投票箱に入れればよいが、不信任とする場合は部屋の隅にある記入台まで行って投票用紙に記入しなければならない、というような投票方式がとられたため、実際には投票の秘密は存在せず、当局の報復を恐れた有権者によって常に99%以上の信任票が投ぜられていた(西側諸国であればこのような制度は明らかに違憲となるが、東側では違憲審査制が実質的に機能していなかった)。 現在でも朝鮮民主主義人民共和国ではこの制度が健在であり、投票所において秘密警察、治安警察、憲兵の各当局によりすべての有権者の投票過程を徹底的に監視している。反対票を投じることは事実上の反党・反体制行為とみなされ、厳しい拷問に耐えて生き残った者も以後最低二世代に渡って出身成分が低く抑えられ、最悪の場合は一族郎党全員が強制収容所に送られたケースもある。 詳細は「朝鮮民主主義人民共和国#公職選挙」および「最高人民会議#選挙」を参照 また、北朝鮮では開票においても賛成票のみを有効な投票とし、万が一反対票があったとしてもすべて無効とされている。このため選挙結果は「投票率100%(ないしはそれに極めて近い数字)、賛成率100%」と報道される。 日本においても最高裁判所裁判官国民審査の投票用紙には罷免を可とする際にのみ記入することになっているため、投票箱に別の投票用紙が入らないようにする措置として衆議院の投票用紙と国民審査の投票用紙が別々に渡されていたことも多かった1958年の第4回までの時代は、国民審査の投票用紙が交付された後に記載所に向ったかどうかで、その人の投票行動が第三者にほぼ把握されかねないという同様の問題が発生していた(審査対象裁判官が複数人いる場合は誰に記入したかまでは不明だったが、特に第3回は審査対象裁判官が1人だったため、投票者の行動が自明となった)。そこで、1960年の第5回からは中央選管の方針として混同を避けるための2つの用紙の差別化を図った上で衆議院の投票用紙と国民審査の投票用紙を同時に渡す方針を示すようになった。1996年の第17回以降は比例代表の票と同時に渡すこととされている。しかし、一部の自治体では依然として比例代表の票と別々に渡す運用がおこなわれていることが確認されており、投票の秘密が守られていない現状がある。なお、日本国憲法下の衆議院総選挙で衆議院総選挙が無投票当選となったために衆議院総選挙の投票用紙が配られなかった上で最高裁裁判官国民審査のみが行われた例はない。
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