磁気スキルミオンの複数の定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/14 14:39 UTC 版)
「磁気スキルミオン」の記事における「磁気スキルミオンの複数の定義」の解説
一般に、磁気スキルミオンの定義は二つのカテゴリーに分けられる。どちらのカテゴリーを用いるかは、主にどの性質を強調したいかによって変わってくる。カテゴリーの一つはトポロジーに厳密に基く。この定義は磁気構造のトポロジーに依存する物性、たとえば動的挙動を考察する場合に適切だろう。もう一つのカテゴリーは、ある種のソリトン的磁気構造が持つ固有のエネルギー的安定性を強調するために用いられる。このようなエネルギー安定性は、ジャロシンスキー・守谷相互作用(英語版) (DMI) として知られる一種のキラル相互作用によって生じる場合が多いが、必ずというわけではない。 数学的に表現すると、前者のカテゴリーの定義では、スピンテクスチャのスピン空間変化が次の条件を満たすとき、磁気スキルミオンと呼ばれる。 1 4 π ∫ M ⋅ ( ∂ M ∂ x × ∂ M ∂ y ) d x d y = n {\displaystyle {\tfrac {1}{4\pi }}\int {\boldsymbol {M}}\cdot \left({\frac {\partial {\boldsymbol {M}}}{\partial x}}\times {\frac {\partial {\boldsymbol {M}}}{\partial y}}\right)\mathrm {d} x\mathrm {d} y={n}} ここで n は n ≥ 1 を満たす整数である。 後者のカテゴリーの定義でも、磁気スキルミオンは同じ条件 1 4 π ∫ M ⋅ ( ∂ M ∂ x × ∂ M ∂ y ) d x d y = n {\displaystyle {\tfrac {1}{4\pi }}\int {\boldsymbol {M}}\cdot \left({\frac {\partial {\boldsymbol {M}}}{\partial x}}\times {\frac {\partial {\boldsymbol {M}}}{\partial y}}\right)\mathrm {d} x\mathrm {d} y={n}} を満たすスピンテクスチャとして規定される。n はやはり n ≥ 1 を満たす整数である。ただし、それに加えて、空間並進に対してエネルギー的に不変な磁気ソリトンを安定とするようなエネルギー項が必要だとされる(空間並進に関する条件には、ある種のナノ構造で発生する閉じ込め効果など、系外の因子による構造安定化を除外するという意味がある)[要出典]。 前者の磁気スキルミオンの定義は、より条件が厳しい後者の定義の上位集合となっている。前者の定義の存在意義は、励起に対する動的応答をはじめとするスピンテクスチャの物性がトポロジーそのものによって決定されるところにある。 後者の定義は、いくつかの n ≥ 1 磁気配向が持つ本質的な安定性を強調するために用いられることがある。そのような安定性をもたらす相互作用は、数学的に様々な表現が可能である。例えばそのような表現の一つとして、場を記述するために二次または四次程度の高次空間微分項を用いる方法が挙げられる(素粒子物理学において連続場モデルについてトニー・スカームがもともと提案した機構)。また別の表現として、リフシッツ不変量として知られる一次微分の汎関数(磁化の一次空間微分に線形なエネルギー寄与分)も後にアレクセイ・ボグダノフにより提案された(そのような一次微分の汎関数の例としてジャロンシンスキー・守谷相互作用が挙げられる)。いずれにしても、エネルギー項が作用すると、偏微分方程式系にトポロジー的に非自明な解が生まれる[要出典]。言い換えれば、エネルギー項が作用することにより、局所的な有限領域の中にトポロジー的に非自明な磁化配向が生まれ、それが自明な基底状態に比して安定もしくは準安定となる。つまり磁気ソリトンの存在が可能となる。後者の定義のスキルミオンの存在を可能とするようなエネルギー項を持つハミルトニアンを次に例示する。 H = − J ∑ r M r ⋅ ( M r + e x + M r + e y ) − D ∑ r ( M r × M r + e x ⋅ e x + M r × M r + e y ⋅ e y ) − B ⋅ ∑ r M r − A ∑ r I M z r 2 {\displaystyle H=-J\sum _{\boldsymbol {r}}{\boldsymbol {M_{r}}}\cdot \left({\boldsymbol {M_{r+e_{x}}}}+{\boldsymbol {M_{r+e_{y}}}}\right)-D\sum _{\boldsymbol {r}}\left({\boldsymbol {M_{r}}}\times {\boldsymbol {M_{r+e_{x}}}}\cdot {\boldsymbol {e_{x}}}+{\boldsymbol {M_{r}}}\times {\boldsymbol {M_{r+e_{y}}}}\cdot {\boldsymbol {e_{y}}}\right)-{\boldsymbol {B}}\cdot \sum _{\boldsymbol {r}}{\boldsymbol {M_{r}}}-A\sum _{\boldsymbol {rI}}M_{z{\boldsymbol {r}}}^{2}} (2) ここで、四つの項はそれぞれ交換相互作用、ジャロシンスキー・守谷相互作用(英語版)、ゼーマン相互作用(磁場下の磁気双極子に作用する「通常の」トルク)、磁気異方性(典型的には結晶磁気異方性(英語版))相互作用に対応するエネルギーである。式 (2) には双極子項、すなわち原子間の「脱磁化」相互作用[訳語疑問点]は含まれていないことに留意されたい。式 (2) と同じように、「二次元的」磁性極薄膜のシミュレーションでは双極子相互作用は比較的影響が小さいためしばしば省略される[要出典]。
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