監護権に関する調停 (日本)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 04:00 UTC 版)
「家事調停」の記事における「監護権に関する調停 (日本)」の解説
監護権 ( de: Aufenthaltsbestimmungsrecht, en:child custody ) に関する家事事件の特徴は、調停申立てが審判申立てと比べて相対的に件数が少なく、調停成立率も低い点にある。つまり、監護権争いについては、当事者が協議による解決ではなく裁判による判断を求める傾向が相対的に強い。 日本の裁判実務は、監護権争いの事案について、以下のような事情を重視して判断している。 継続性の原則(監護の現状をできるだけ維持する。) 主な監護者の優先(当事者が同居していた時に、どちらが主に子を監護していたか。継続性の原則と同じ発想の基準といえる。)。 監護環境の優劣。主な考慮要素は、資産、収入、住環境、自ら子の監護を行う時間や体力の余裕、虐待の危険性、監護補助者の存否などである。 子の意向。日本の家庭裁判所は、10歳以上の子の意向を考慮することが多く、15歳以上の子の意向 を重視する。 兄弟姉妹不分離の原則(兄弟姉妹全員をできるだけ一人の者に監護させる。) 面会交流の許容性。ただし、日本の裁判実務には、面会交流の許容性を継続性の原則や監護環境の優劣ほどには重視しない傾向がある。 同居親が単独監護を違法に開始していないか(例えば、先行する調停や裁判に違反していないか。)。この点については、後述する。 不貞行為は、不貞関係に夢中になって子の監護を怠るような場合を除いて、重視されない。 日本に限らずどこの国でも、父母の関係が悪化すると、一方の親が他方の親に無断で子を連れ出して別居を開始することがある。しかし、日本の裁判実務は、主な監護者(同居時に子の監護の大部分を担っていた親)がこのような子の無断連れ出しを行っても、脅迫や暴力が伴わない限り、違法性が小さいとみなす傾向がある。日本では、母が子の主な監護者であることが多く、子の連れ出しを行う親も母が多い。裁判実務は、「母が父に無断で子を連れ出したことを非難しても、結局は母が監護者として適切なのであれば、最初から母を非難すべきでない。」という発想をしているのである。日本は、ドイツなど他の先進国と比べて国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の批准が遅かった国であるが、このことは、裁判実務だけでなく日本の社会全体で、親子の分離において公正な手続を履むことよりも、DV被害者が子連れで避難する必要性を重視する意見 の方が優勢であることを示唆する。 日本は、ドイツの監護法制と似た法制を持つが、前述した日本の裁判実務の発想とは対照的に、ドイツでは、監護権(居住権)に関する協議や裁判は別居前に行うべきものという認識が浸透している。日本の裁判実務は、ドイツではなくアメリカの裁判実務と傾向が似ていると言える。 前述のとおり、監護権に関する調停には家庭裁判所調査官が関与する事案が多い。家庭裁判所調査官は、期日に立ち会って調停委員会に専門的知見に基づく助言を行い、子の監護状況や子の心情・意向の調査などを行っている。この場合の調査は、①両親から同居時の監護に関する役割分担、別居後の同居親の監護状況、別居親の予定している監護環境などを陳述書や面接により聴取し、②両親の家庭を訪問して実地調査をし、③子に面接して心情や意向を聴取する、という手順を基本とする。調停委員会は家庭裁判所調査官の調査結果を重視することが多く、この調査結果は、調停が成立せず事件が審判に移行しても、裁判官の判断に大きな影響を及ぼす。
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