生体高分子におけるハロゲン結合
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「ハロゲン結合」の記事における「生体高分子におけるハロゲン結合」の解説
時折、生体高分子構造におけるハロゲン結合の重要性は見過ごされてきた。蛋白質構造データバンク(protein data bank, PDB: 2004年7月版)中の単結晶構造に基づいた、PDBに登録されている解像度3 Å以下の単結晶構造を対象としたAuffingerらの研究で、100以上のハロゲン-酸素相互作用ハロゲン結合が、ハロゲン化塩基を持つ6つの核酸構造ならびに66のタンパク質-基質複合体に見いだされた。ハロゲン-酸素相互作用ほど頻繁ではないが、ハロゲン-窒素およびハロゲン-硫黄接触も同様に同定されている。これらの科学的発見は、生物システムにおけるハロゲン結合の役割を明らかにするためのユニークな基礎を提供する。 生体分子レベルでは、ハロゲン結合は基質特異性や、結合、分子折り畳みで重要である。タンパク質-リガンド相互作用の場合は、最も一般的な分極したハロゲンとの電荷移動結合は、主鎖のカルボニル基および/あるいはアミノ酸残基のヒドロキシ基ならびにカルボキシ基が関与している。DNAおよびタンパク質-リガンド複合体では通常は、ルイス塩基ドナー原子(例: O, S, N)とルイス酸(ハロゲン)との間の結合距離は、これらのファンデルワールス半径の和よりも短い。構造的ならびに化学的環境に依存して、ハロゲン結合相互作用は弱くも強くもなる。いくつかのタンパク質-リガンド複合体の場合は、ドナー-アクセプターの方向性が一致しているならば、ハロゲン結合はエネルギー的にも幾何学的にも水素結合に匹敵している。この分子間相互作用はタンパク質-リガンドやDNA構造を安定化しコンホメーション(配座)の決定因子であることが示されている。 分子認識および結合でも、ハロゲン結合は重要であろう。この主張の薬剤設計における一例は、IDD 594のヒトアルドースレダクターゼへの結合での基質特異性である。E. I. Howardはこの単量体酵素について最も優れた解像度 (0.66 Å) の構造を報告している。この生体高分子は316アミノ酸残基からなり、アルドースやコルチコステロイド、アルデヒドを還元する。本酵素によってD-グルコースから得られるD-ソルビトールは、糖尿病の病状の下流効果に寄与していると考えられている。したがって、本酵素の阻害は治療においてメリットがある。 アルデヒドやカルボン酸を有する阻害剤は効果的であるが、アルデヒドレダクターゼの機能を損うため毒性を示す。カルボン酸およびアルデヒド阻害剤は、Trp 111、Tyr 48、His 110と水素結合している。阻害剤の結合の結果作られる特異性ポケットはLeu 300、Ala 299、Phe 122、Thr 113、Trp 11から構成される。阻害剤が有効であるため相互作用する、鍵残基はThr 113とTrp 111であることが同定された。IDD 594は、ハロゲンが選択性と活性が向上させるように設計された。結合する時、本化合物はコンホメーション変化を誘導し、Thrの酸素原子と阻害剤の臭素とのハロゲン結合を引き起こす。このハロゲン結合の距離は2.973(4) Åだった。このO-Brハロゲン結合が、本阻害剤がアルデヒドレダクターゼではなくヒトアルドースレダクターゼに対して高い活性を示すことに寄与している。
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