求積不可能性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 02:26 UTC 版)
三体問題の求積可能性は、19世紀末に証明されたブルンスの定理およびポアンカレの定理によって否定的に解決された。 1887年に出版されたブルンスの定理は次のことを主張する。 一般三体問題について、座標 ( r 1 , r 2 , r 3 ) {\displaystyle (\mathbf {r} _{1},\mathbf {r} _{2},\mathbf {r} _{3})} 、運動量 ( p 1 , p 2 , p 3 ) {\displaystyle (\mathbf {p} _{1},\mathbf {p} _{2},\mathbf {p} _{3})} 、時刻 t {\displaystyle t} の代数関数であるような運動の積分でオイラー積分(重心運動、エネルギー、運動量、角運動量)と線型独立であるようなものは存在しない。 この事実は、ただちに三体問題の非可積分性を意味するものではないものの、可能な運動の積分の形について強い制約を課す。1898年にポール・パンルヴェはこの定理を拡張し、運動量に関して代数関数であるような運動の積分はオイラー積分以外に存在しないことを証明した。 アンリ・ポアンカレが1890年の研究報告および1892年の著書で定式化したポアンカレの定理は次のことを主張する。 パラメータ μ {\displaystyle \mu } を持つ近可積分系ハミルトニアン H = H 0 ( I ) + μ H 1 ( I , θ ) + μ 2 H 2 ( I , θ ) + ⋯ {\displaystyle H=H_{0}(I)+\mu H_{1}(I,\theta )+\mu ^{2}H_{2}(I,\theta )+\cdots } (ここに ( I , θ ) {\displaystyle (I,\theta )} は作用・角変数で、 H 1 , H 2 , ⋯ {\displaystyle H_{1},H_{2},\cdots } は θ {\displaystyle \theta } に関して周期 2 π {\displaystyle 2\pi } であるものとする)について、 d e t ( ∂ 2 H 0 ∂ I i ∂ I j ) {\displaystyle \mathrm {det} \,\left({\frac {\partial ^{2}H_{0}}{\partial I_{i}\partial I_{j}}}\right)} が恒等的にゼロではなく、 H 1 {\displaystyle H_{1}} の角変数 θ {\displaystyle \theta } に関するフーリエ係数のうちゼロでないものが無限個存在するならば、パラメータ μ {\displaystyle \mu } に関してべき級数展開 Φ ( I , θ , μ ) = Φ 0 ( I , θ ) + μ Φ 1 ( I , θ ) + μ 2 Φ 2 ( I , θ ) + ⋯ {\displaystyle \Phi (I,\theta ,\mu )=\Phi _{0}(I,\theta )+\mu \Phi _{1}(I,\theta )+\mu ^{2}\Phi _{2}(I,\theta )+\cdots } が可能であるような ( I , θ , μ ) {\displaystyle (I,\theta ,\mu )} について解析的な運動の積分 Φ ( I , θ , μ ) {\displaystyle \Phi (I,\theta ,\mu )} でハミルトニアン H {\displaystyle H} と独立なものは存在しない。 特に、制限三体問題は μ = m 2 / ( m 1 + m 2 ) {\displaystyle \mu =m_{2}/(m_{1}+m_{2})} 、かつ H 2 {\displaystyle H^{2}} をハミルトニアンと解釈することでこの定理の仮定を満足し、従ってパラメータ μ {\displaystyle \mu } に関して解析的な運動の積分は存在しない。この結果は「三体問題は解析的に解けない」という表現で広く知られている。ただしこれはあくまでパラメータ μ {\displaystyle \mu } に解析的に依存する運動の積分が存在することはないということを主張するだけであって、個々の μ {\displaystyle \mu } の値での非可積分性は定理の主張に含まれない。 詳細は「ポアンカレの定理」を参照 その後、20世紀後半から21世紀初めにかけて、ソフィア・コワレフスカヤの特異点解析(これは彼女をコワレフスカヤのコマの発見に導いた)の流れを受ける Ziglin 解析による、あるいは Ziglin 解析に微分ガロア理論を応用する Morales-Ramis 理論による、三体が任意の質量を持つ一般三体問題の非可積分性の証明が得られた。
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