歩行パターンによる歩行制御
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 05:37 UTC 版)
「二足歩行ロボット」の記事における「歩行パターンによる歩行制御」の解説
現在主流なのは、重心位置を制御して歩行を制御する方法である。技術的にこなれた位置制御をベースに開発できるため、ほとんどの歩行ロボットがこの方法を採用している。ZMPを使った歩行制御も、重心位置を制御して歩行を実現している。 ロボットが歩く時の関節角の制御量を歩行パターンと言う。歩行パターンと言うと、古臭いパターン歩行を連想させるので、研究者によっては、歩行軌道や歩行制御量など言い方は様々である。かつては計算機の能力が足りなかったため、あらかじめ歩行パターンを生成しておき、ロボットでそれを再生することで歩行を実現しようとしていた。この方法は、計算値と実際のロボットの挙動が徐々にずれるためにうまくいかない。コンピュータの発達とともに挙動をリアルタイムでフィードバックし歩行パターンを生成することが出来るようになり、歩行が実現できるようになった。歩行パターンは制御モデルの運動方程式を立て、歩行の仕方となる拘束条件を入れ、運動方程式を解いて制御量を求める。 運動方程式とは、ある関節にどれだけ力を加えると、体の姿勢がどう変化し、重心位置とモーメント力がどうなる、という関係を表した数式である。運動方程式はリンクごとに相互作用を一つ一つ考慮して立てることも出来るが、歩行ロボットのようにいくつもリンク機構があると運動方程式を立てることは容易ではない。普通はオイラー・ラグランジュの運動方程式を使い、運動方程式を作る。 オイラー・ラグランジュの運動方程式 d d t ∂ L ∂ q ˙ i − ∂ L ∂ q i = 0 {\displaystyle {\frac {d}{dt}}{\frac {\partial {}L}{\partial {}{\dot {q}}_{i}}}-{\frac {\partial {}L}{\partial {}q_{i}}}=0} ラグランジアン L {\displaystyle L\ } は以下の式で表される。 L ( q ( t ) , q ˙ ( t ) , t ) ≡ T − V {\displaystyle L({\boldsymbol {q}}(t),{\dot {\boldsymbol {q}}}(t),t)\equiv T-V} T {\displaystyle T\ } 運動エネルギー V {\displaystyle \qquad V} ポテンシャルエネルギー q i {\displaystyle \qquad q_{i}} 一般化座標 q i ˙ {\displaystyle \qquad {\dot {q_{i}}}} 一般化座標の時間微分 この方程式は、外力が加わらない限り、ポテンシャルエネルギーの変化量と運動エネルギーの変化量は等しいという、物理学の基本法則から導かれている。ロボットの運動は3次元なので、式は行列とベクトルを使ったもので構成される。これ以上は専門書を参考にされたい。 歩行ロボットの自由度は多いので、ただ運動方程式を解いても歩行パターンは得られない。何らかの拘束条件を入れなければならない。生物のヒトやトリの歩行パターンやZMPがその拘束条件となる。ZMPでは、動力学的な重心位置が足裏の上に来るような関係式を立て、上の運動方程式と組合わせて連立方程式にして解く。方程式を解くと、どの関節を動かすとZMPがどこになるのか、あるいは、ZMPをある位置に持って行きたいときは、どの関節をどれだけ動かせばいいのかが、行列式によって表される。 歩行パターンは遊脚が床面から離れてから、再び床面に着くまでを一つのパターンとなる。この1パターン分の各アクチュエータの制御量を生成し、ロボットにステップ毎に入力すると理論的にはロボットは歩行することになる。コンピュータが高性能になった現代ではリアルタイムで歩行パターンが計算できるとはいうものの、複雑に変化する環境下で歩行パターンを随時計算するのはやはり難しい。標準的な歩行パターンを用意しておき、それに微妙なバイアスをかけることである程度の環境の変化に対応できるようにする、などの試みが行われている。 歩行パターンを使う歩行制御法ではどうしても運動方程式を解く必要があるが、ロボットの中に弾性体、いわゆるバネ系が存在するとオイラー・ラグランジュの運動方程式を解くことが出来なくなる。そのため、現在見られる歩行ロボットは極力バネ系が無いように設計される。サスペンションなどの衝撃緩衝機構が歩行ロボットに用いられないのはこのためで、歩行ロボットによる走行を難しくしている一つの要因となっている。
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