条約による制限
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/07 15:43 UTC 版)
裁判権は、条約によって制限することが可能である。日本は、開国当初はいわゆる不平等条約により治外法権(締約相手国の領事裁判権)が認められていた。すなわち、安政4年(1857年)の日米修好通商条約4条は、次の通り(表記を現代化し、句読点を補う)。 「日本人に対し法を犯せる亜米利加人は、亜米利加コンシュル裁断所にて吟味の上、亜米利加の法度を以て罰すべし。亜米利加人へ対し法を犯したる日本人は日本役人糺の上、日本の法度を以て罰すべし。日本奉行所亜米利加コンシュル裁断所は、双方商人逋債の事をも公に取り扱うべし。 すべて条約中の規定並びに別冊に記せる所の法則を犯すにおいては、コンシュルへ申達し、取上品並びに過料は日本役人へ引渡すべし。両国の役人は、双方商民取引の事について差構う事なし。」 しかし、条約改正の達成により、不平等条約に基づく治外法権は撤廃された。 今日において残る治外法権は、外交使節に関するものである。外交関係に関するウィーン条約によれば、次の者が、接受国の裁判権からの免除を享有する。 外交官、及び、その家族の構成員でその世帯に属する者(接受国の国民でない場合)については、刑事裁判権(31条1項1文、37条1項)、及び、次の訴訟の場合以外の民事裁判権及び行政裁判権(31条1項2文、37条1項)。接受国の領域内にある個人の不動産に関する訴訟(その外交官が使節団の目的のため派遣国に代わつて保有する不動産に関する訴訟を含まない。) 外交官が、派遣国の代表者としてではなく個人として、遺言執行者、遺産管理人、相続人又は受遺者として関係している相続に関する訴訟 外交官が接受国において自己の公の任務の範囲外で行なう職業活動又は商業活動に関する訴訟 使節団の事務及び技術職員並びにその家族の構成員でその世帯に属するもの(接受国の国民でない場合、又は、接受国に通常居住していない場合)については、原則として外交官と同じ。但し、民事裁判権及び行政裁判権からの免除は、その者が公の任務の範囲外で行なつた行為には及ばない(37条2項)。 使節団の役務職員(接受国の国民でないもの、又は、接受国に通常居住していないもの)については、その公の任務の遂行にあたつて行なつた行為についての裁判権からの免除(37条3項)。 但し、派遣国は、上記の者に対する裁判権からの免除を放棄することができる(32条1項)。この場合、放棄は、常に明示的に行なわなければならない(32条2項)。民事訴訟又は行政訴訟に関する裁判権からの免除の放棄は、その判決の執行についての免除の放棄をも意味するものとはみなされない(32条4項1文)。即ち、判決の執行についての免除の放棄のためには、別にその放棄をすることを必要とする(32条4項2文)。 なお、上記の者が訴えを提起した場合には、本訴に直接に関連する反訴について裁判権からの免除を援用することができない(32条3項)。
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