有罪判決に対する疑問点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/22 05:10 UTC 版)
この事件では犯行を実証する物的証拠が少なく、桜井・杉山の自白と現場の目撃証言が有罪の証拠だった。しかし、その自白は取調官による誘導の結果なされたと弁護側は主張していた。 盗難品が明確でない - 金銭目的の強盗殺人とされているが、何が実際に盗まれたのかを明確にしていない。被害者の白い財布の件も供述調書で変遷しており、犯行後どのようになったかが明確になっていない。 2人の指紋が出ていない - 43点の指紋が採集されたが、桜井・杉山の指紋が現場から出ていない。裁判では指紋は拭き取ったとしているが、物色されたはずの金庫や机から多くの指紋が検出されている矛盾点については説明がなされていない。 自白が不自然である - 被害者宅へ侵入した方法についての自白が不自然である。供述調書によれば、「勝手口の左側ガラス戸を右に開けると、奥の8畳間から顔を出した被害者の顔が見えた」とされているが、現場の勝手口は左ガラス戸の内側に大きな食器棚が置かれていたため、わざわざ障害物がある方の戸を開けるのは不自然である上、そもそも被害者の顔が見えるはずもない。また、反対側の戸は40センチメートル程度は開けられる。 誘導により自白聴取された - 事件現場の家の図面は、取調室内で見せ取調官の誘導で自白調書が取られた。 警察によるアリバイの偽造 - アリバイとなる8月28日に2被告人に会った人物の裏を捜査陣が取り、それら全てを8月28日以外のことにした。 殺害方法の不一致 - 自白では「両手で首を絞め」となっていたが、被害者は紐で絞殺されていた。(再審時の新証拠で明らかになる。) そのため、再審開始決定では「自白の中心部分が死体の客観的状況と矛盾する」とされ、「捜査官の誘導に迎合したと疑われる点が多数存在する」と認定された。他にも、「周囲が暗くなっている当時の状況などから、2人と特定できない」ともされた。 また、検事から証拠として開示された事件当時の取り調べテープに中断(編集)した跡が13か所も見受けられること、女性が犯行現場で被告人以外の人を見ていたことなどが再審請求の時に検察から提出された証拠に含まれていた。これらの録音テープ、後述の毛髪鑑定書、女性の目撃証言は2度目の再審請求の際に検察が初めて開示した。確定審においては、検察は録音テープの存在を否定していた。 なお、現場では毛髪が8本発見され、この毛髪の鑑定書については検察側が存在を否定していたが、2005年に検察側から弁護側に鑑定書が開示された。これによると、3本は被害者のものだったが、残り5本の中に被疑者とされた桜井・杉山の毛髪はない。裁判所はこれらの証拠が裁判時に提出されていたら無罪になっていた可能性を指摘した。2005年からの刑事訴訟法改正では、検察の証拠開示が明確に制度化されているが、公判前整理手続きがないため、この事件においてはこの制度は適用されていない。
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