日本一の堆砂
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/09/08 15:43 UTC 版)
千頭ダムはこうして大井川における電源開発事業の一角を形成したが、完成後より上流より流入する土砂がダム湖に堆砂し、現在では日本で最も砂に埋もれたダムとして有名となった。特に知られるようになったのは2002年(平成14年)11月18日付けの朝日新聞報道による、「44ダムで堆砂50%以上」という記事からである。 大井川水系は糸魚川静岡構造線(糸静線)に沿って流れる。このため源流部の山地では崩落が激しく、大量の土砂を排出する。この大量の土砂をダムで堰き止めるため、堆砂は他の河川に比べて急速に進む。全国的にも大井川水系や富士川水系、天竜川水系といった糸静線に沿って流れる水系でのダム堆砂率は高く、特に千頭ダムに至っては総貯水容量が100万トン以上のダムの中で堆砂率が98.1%と最も堆砂が進んでいると国土交通省による2002年の調査で判明、朝日新聞の報道はこの調査を基にしている。 堆砂率とはダムを建設する際に予め設定される堆砂容量が砂で埋まる率を示している。通常総貯水容量より有効貯水容量を引いた容量がおおよその堆砂容量となる(実際は死水容量も含まれる。それぞれの解説の詳細はダム#ダム諸元に関する表記を参照)。千頭ダムにおいては (総貯水容量)4,950,000トン-(有効貯水容量)4,349,000トン=(堆砂容量)601,000トン となり、この601,000トンの98.1%が砂に埋もれている。従ってダム湖全てが埋没しているわけではないが、「ダム湖の98.1%が埋もれている」という誤った理解が為されている事が多い。また千頭ダムは発電専用ダムであり、それ以外の機能は持たされていないためダム機能が不全に陥るということもない。だが実際にダム反対派のほとんどが「堆砂=ダム機能の終焉」と喧伝しており、中には「堆砂の進行したダムは、少々の雨で決壊する危険性がある」とウェブサイトで主張している反対派もいる。だが堆砂とダム決壊を立証する出典は呈示していない。 ダム決壊の要因は堤体の設計ミスや岩盤の強度誤認を主原因とし、天災をトリガーとして発生する。堆砂の進行が直接の原因によるダム決壊例は全世界において例が無い。「貯砂」という視点で河川法上のダムと鉱滓ダムを誤認する例も見られている(鉱滓ダム決壊は日本でも例がある)。だが、堆砂に伴う河床上昇が水害をひきおこす因果関係は否定できず、泰阜ダム(天竜川)と「三六水害」(1961年(昭和36年)に飯田市を中心に被災した天竜川の水害)との関連性が指摘されている。治水を目的とする多目的ダムなどでは堆砂は洪水調節の重大な阻害要因であり、所定の目的を達成できない危険性がある。近年深刻化している海岸侵食とダム堆砂の関連性も否定できない。 このため宇奈月ダム・出し平ダム(黒部川)における連携排砂事業を始め、美和ダム(三峰川)や松川ダム(松川)などでは堆砂を排出するバイパストンネルを建設し、長島ダム(大井川)や相模ダム(相模川)などでは浚渫・貯砂ダムによる定期的堆砂除去を行っている。未だ緒についたばかりであるため、排砂被害訴訟のようにそれぞれ課題となる問題はあるものの、国土交通省や各電力会社はダムの堆砂防除と海岸侵食防止に取り組みはじめている。
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