新しい発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/21 14:59 UTC 版)
ダーレスは、ラヴクラフトやスミスの書簡集も出版したが、クトゥルフ神話については、あくまでも作品に記された部分にだけ注目していた。だが、書簡の中でのみ言及されている設定や神々の名もあった。最初にそこに注目したのはリン・カーターである。今日では、書簡で述べられていた設定は、次々と神話作品内に取り入れられている。 ラヴクラフトが創始したクトゥルフ神話作品の基本パターンは、好事家や物好きな旅行者が偶然から旧支配者にまつわる伝承や遺物に触れ、興味を引かれて謎を探求する内に真相を探り当てて悲劇的最期を遂げ、それを本人(が残した手記で)あるいは友人が語るというもので、特定の地名や神名、魔術書などの独特のアイテムが作中に散りばめられる。クトゥルフ神話は、こうしたアイテムによって定義されているとも言え、小説の素材として多くの作家に利用されてきた。ラヴクラフト以後の作家によって書かれた神話作品は、こうしたラヴクラフトの基本プロットを踏襲して、そこに新たに創作した遺物を付け加えるなどクトゥルフ神話の一部と呼ぶに相応しい本格的なものから、単に旧支配者の神名や召喚の聖句などが作中に出てくるだけのものまで、さまざまに共有・拡張され、神話体系ができあがっている。そして、これらの神名や新しい土地、魔導書等の名やキャラクターは、今も増え続けている。 1940・50年代、アーカムハウスから作家が作品を発表する一方で、あるファンはバラバラだった作品群を体系化しようと、事典を作りファンジンに発表する。これらの事典は、ダーレスに注目されることとなり、アーカムハウスの単行本に収録され、またダーレスが作品の方を事典の記載に合わせるなど行い、公式設定と化すことになった。 作家たちの想像力の限りを尽くした、この世のものとも思えない異形の旧支配者たちは、怪奇ファンのみならず多くの読者を楽しませており、今や怪奇小説一つの枠に納まらなくなりつつある。2009年にはカナダのPermuted Pressから、ナイアーラトテップの一人称による暗黒小説、シュブ=ニグラスをヒロインとした正統派ロマンス小説、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』やジュール・ヴェルヌのキャラクターであるネモ船長を導入した作品など、他ジャンルのクトゥルフ神話作品を収録した作品集が刊行されている。 1981年に、TRPG『クトゥルフの呼び声』(後のクトゥルフ神話TRPG)が登場する。先行の大手TRPGが『ダンジョンズ&ドラゴンズ』などいわゆる「剣と魔法のファンタジー」であった時代に、異質なホラーゲームとして登場してファンを獲得した。TRPGはまた、独自の体系化を行っている。小説のみならず、漫画やゲームの世界にも神話世界は拡張され続けている。 フランスでは1950年代に紹介され始めていたが、1960年にジャック・ベルジェfr:Jacques Bergierが『魔術師の朝』(Le Matin des Magiciens、邦訳抄訳版『神秘学大全』)でラヴクラフトを紹介したことがきっかけとなり声価が急速に高まった。
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