敵対的買収への対応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/18 14:50 UTC 版)
もともと日本では企業間での「株式持ち合い」という慣習により、企業買収は困難な状況であった。持ち合いは取引先の企業・金融機関などとの間で見られる。取引先の企業・金融機関では取引関係の安定・継続の目的と相互株主保有の自社にとってのメリットが認められてきた。また、保険会社、従業員の持ち株会などにも安定株主としての役割が期待され、さらに、個人株主にも長期安定保有を促すため株主優待などの仕組みが発達した。 しかしデフレ不況が続くもとで企業の保有資産の効率化の視点から、保有資産としての株式の収益性の悪さ、継続的取引が企業間の競争的な効率性の改善に支障になることなど持ち合いについてマイナス面に限った指摘が増えた。また時価会計の導入によって株式保有の資産価値が変動するようになり、株式保有のリスクが表面化するようにもなった。系列取引については長期継続取引を前提にして設備投資を促したり、品質の確保を促しやすいなど多くのメリットがある。しかし外国資本や新興企業が市場や取引に新規参入するにあたって、株式の持ち合いが市場競争を促進するうえでの大きな障壁であるとされ、さらに調達企業側にとってもデフレ不況の深刻化のなかで従来の取引関係にとらわれず調達先を広げたり値引き交渉を行い、大幅なコストダウンを図ることが重視されるようになった。これらの様々な理由から、株式持ち合いの解体が主張されるようになった。 しかし近年企業買収の制度が整備されるなか、個人株主の長期保有を促すことと合わせて株式持ち合いの強化が注目されている。それは必ずしも明示的な宣言の要素を伴わず、市場に対して大きな影響を与えずに進められる防衛策だからである。具体的には、企業間の取引関係の強化を表向きの理由として第三者割当増資を行うといったやり方で実施されている。 これに対して近年議論の俎上に上がる「買収防衛策」といわれるものは、特定の「買収防衛策」の導入の発表といった宣言的要素を伴うため、市場からの反応を招きやすい。買収防衛策は、本来は株主のために企業価値(狭義では配当および株価)の維持のために行うものであり、企業価値が毀損されるような買収防衛策は、現在株主に対する背信行為につながり正当化できない。また、一般に株式市場は経営者の地位を守るだけの防衛策は否定的反応を示すとされる。そこで株主総会での承認手続きが重視される。またもう一つ重視されるのは買収防衛策を発動する条件である。多くのケースでは経営陣から独立した委員会が、買収者の狙いが企業価値を損ねると判断することを発動条件としている。このように買収者の意図を確認して、防衛策の発動を決めることを事前警告型と呼んでいる。この場合、買収者の定義としては15%あるいは20%を取得したものとし、経営陣から独立した委員会の意味は経営陣を含まない社外メンバーとするものが多い。 具体的買収防衛策としては以下にみるポイズンピル型が多い。既存株主に対して無償で新株予約権を交付するものが多い。ただし、新株予約権を交付すると既存の株主権の希薄化(株式の希薄化)につながることへの批判もある。そこで信託銀行にあらかじめ新株予約権を発行しておき、発動条件が満たされたときに信託銀行経由で株主に新株予約権を交付する仕組み(ライツプラン)も開発されている。 このような買収防衛策の議論に対して、そもそも企業が買収の脅威にさらされるのは実現できる株価に比べて高株価が実現できていないためであるとして、企業価値の向上を図ることが最良の買収防衛策であるとの議論も繰り返されている。このような議論では株主への利益還元を図ること、たとえば増配や自社株買い取りを進めることなど株価向上のための施策が企業買収防衛策として指摘されることもある。
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