掻爬術と吸引法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 07:29 UTC 版)
日本やポーランド、アイルランド等のミフェプリストンが未認可の国々では、掻爬術あるいは吸引処置が選択される。子宮穿孔や出血などの合併症のリスクが高く安全性において「薬物による中絶」に大きく劣る。ミフェプリストンが開発される以前は、妊娠初期であっても吸引術や掻爬術がファーストチョイスとして選択されていたが、ミフェプリストンが認可された国々ではリスクの問題のためにファーストチョイスとされない。また、子宮内膜が薄くなる子宮内膜菲薄化、子宮に穴が開いてしまう子宮穿孔や術後にアッシャーマン症候群を起こすことがあり、不妊症となるケースがあるのも欠点である。[要出典] D&C法(dilatation and curettage)- 英語で「拡張と掻爬」という意味で、ドイツ語ではAuskratzungと呼ばれる。胎盤鉗子とキュレットを用いる掻爬術。 D&E法(dilatation andevacuation)- 英語で「拡張と吸引」という意味で、吸引器を用いて子宮内容物を吸引除去する方法。EVA(electric vacuum aspiration)- 電動式吸引器を用いる MVA(manual vacuum aspiration)- 手動式吸引器を用いる 2021年10月時点、日本ではD&Cが主流であるが、D&Eは以下の点でD&Cよりも利点が多い 中絶手術における手術時間が短く、出血量が少なく、疼痛が少ない。 アメリカ合衆国(米国)などでは1980年代には既にD&Eが一般化している。 WHOや英国のガイドラインではD&Cは推奨されていない。 日本でもD&CがD&Eに比べて再手術を要する不全流産と子宮穿孔の頻度が高い。 術中は強い疼痛が生じるため、静脈麻酔を使う。また経腟分娩の経験がない女性は術中に子宮口が開きにくく、術前に子宮口を開く処置を要するが個人差があるが痛みを伴う。 日本産婦人科医会においても、WHOや英国の安全な中絶に関するガイドラインではD&C(搔爬法)は推奨されておらず、また一般的にD&Cを施行された既往のある女性では早産率が高く、不妊治療の経過において子宮内膜が薄い場合があり、3 回以上のD&Cを受けた女性で子宮腺筋症の率が高い点を理解しており、国際産科婦人科連合(FIGO)もそのSafe Abortion(安全な中絶)委員会において強くD&E を勧めていると公表している。 ラミナリアによる経管拡張には時間がかかるので、通常1日間の留置が行われる。子宮頚管をラミナリア等で拡張後に、産婦人科器具(胎盤鉗子やキュレット、吸引器など)で胎児を物理的に直接除去する。苦痛を伴うため、通常経静脈的に鎮静剤の投与が必要とされる WHOは「掻爬法は、時代遅れの外科的中絶方法であり、真空吸引法または薬剤による中絶方法(Medical Abortion)に切り替えるべき」と勧告している。一方で日本産婦人科医会は、「我が国の掻爬法は、歴史もあり、その手技に習熟した慣れた医師は安全に確実に行っている」と主張している。 2021年7月、厚生労働省は公益社団法人 日本産婦人科医会 会長と公益社団法人 日本産科婦人科学会 理事長あてに「人工妊娠中絶等手術の安全性等について(依頼)」として、WHOガイドラインの抜粋を添付し「国際的な動向を踏まえて電動式吸引法と手動式吸引法の周知」を求める厚生労働省子ども家庭局母子保健課長通知を発出した。この通知については日本産科婦人科学会の木村正・理事長(大阪大教授)は吸引法周知に取り組む姿勢を見せつつも、旧手法を長年行って来た医師の新技術取得について懸念と安全性の損失を表明している。一方、世界70カ国・地域が承認しているミフェプリストン・ミソプロストールの中絶薬は外科的手術が不要でありWHOも推奨している。多くの国では手術より薬物中絶比率が高く、フィンランドでは薬物97%、手術3%となっており国際的には薬物中絶が主流となっている。
※この「掻爬術と吸引法」の解説は、「人工妊娠中絶」の解説の一部です。
「掻爬術と吸引法」を含む「人工妊娠中絶」の記事については、「人工妊娠中絶」の概要を参照ください。
- 掻爬術と吸引法のページへのリンク