意識障害のマネジメント
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/03 03:12 UTC 版)
意識障害の患者をみたとき、最も重要なのは診断をすることではなく、救命することである。これはBLSやACLSを参照すればよい。 気をつけるべきことは低血糖の否定を必ず行うことである。低血糖の検査は瞬時に実施でき、治療(意識障害下ではブドウ糖液の経静脈投与)によりすばやい回復が期待でき、また適切に治療しなければ死に至る危険性があるからである。低血糖発作でも眼球偏位や片麻痺を起こすことはあり、誤った治療を行う恐れがある。 またヒステリーによるものも否定した方が良い。ヒステリーによるものは患者の様子から診断するべきだが、迷った時はarm drop testを行う。手を落とすと顔にぶつかるような位置でこのテストを行うとヒステリーの患者は無意識に顔を避けるように落下させることが多い。 また病歴も診断の助けとなる。薬瓶が手元に落ちていたら過量服薬を疑う。 これら基本的な情報収集とBLSといった救命措置ができたのなら、次に考えるのは脳幹障害があるかである。これは脳幹には呼吸中枢があるため、脳幹障害があると呼吸できない即ち、気管挿管の必要があるからである。脳幹障害を判断するには眼球頭反射などを用いるとよい。これは人形の目徴候ともいわれるものである。首を横に振っても眼球が一点を注視せず頭部が振り向いた方向を注視する場合(眼球頭反射陰性)は、脳幹障害と考える、これは脳死の判定基準にも含まれている。注意するべきことは脳幹障害は身体診察で判定するべきであり、CT、MRIといった画像診断で判定してはいけない。CTで脳幹部の圧迫や出血がみられていても、眼球頭反射などがみられ脳幹機能が保たれていれば、その時点では脳幹障害は存在しない。 気管挿管の必要性を判断したら、テント上病変(認知障害)かテント下病変(覚醒障害)か、あるいは全身性病変かの診断となる。外傷の検査も同様に行うことも重要である。バイタルサインでクッシング徴候(高血圧で徐脈)が見られれば、脳圧亢進を疑えるし(逆に低血圧では全身性病変の方が疑わしい)、外傷があり低血圧ならば、神経原性ショックのほかに骨盤骨折による出血や胸腔内、腹腔内出血なども検索する。また薬物による場合も多く、ベンゾジアゼピン、有機リンの中毒は必ず念頭におかなければならない。小児、高齢者は誤薬や過量服薬をしやすいし、麻薬、犯罪目的の薬物投与も少数ながらみられる。血中の薬物濃度や尿中トライエージも必要ならば行うべきである。 日本においては薬物中毒による意識障害はそこまで多くないが、アメリカなどでは非常に多いため昏睡カクテルというものを用いる場合がある。昏睡カクテルとは塩酸チアミン(ビタミンB1、商品名メタボリンなど、50mg/1ml/A)を2A、即ち100mgと50%ブドウ糖液20mlを2A(40ml)と塩酸ナロキソン(0.2mg/1ml/A)を2A(0.4mg)静注することである。チアミンはウェルニッケ脳症を予防するために投与する。はじめにブドウ糖を投与するとウェルニッケ脳症がある場合には増悪するので注意が必要である。麻薬中毒は縮瞳や注射跡があるときに積極的に疑う。ベンゾジアゼピン系の拮抗薬フルマゼニル(商品名アネキセートなど)は必ずしも投与しない。これはてんかん歴のある患者や、複数の睡眠薬を服薬している患者が痙攣を起こすリスクがあるからである。 グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)が8点以下の場合は原則として気管挿管、あるいは気道確保の適応がある。但し、急性アルコール中毒のように速やかに意識の回復が見込める場合はこの限りではない。挿管困難例では下顎挙上やマスク換気を行う。意識障害と嘔吐がみられる場合は制吐剤を投与するが、改善が見られなければ気管挿管の適応となる。
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