心臓音の聴診
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/25 07:19 UTC 版)
心臓の聴診を行うとき場合、まずは心血管系の一般診察を合わせて行うべきである、これらの情報と総合して聴診の所見は決定される。一般内科レベルの心臓疾患の診断の手順としては病歴聴取、身体診察、血液検査、胸部X線、心電図、断層心エコー図(ドプラ法は含まない)を総合的に行う必要がある。病歴は時系列で、症状のonset、持続、誘因、実際の活動度(駅まで歩けるかなど)を中心に聴取していく。症状がなく、異常の指摘といった病歴も特記すべき事項がなければ、正常所見といわれる状態ならば正常と考えてよいが、そうでなければその所見が正常かどうかは想定する疾患によって異なる。 橈骨動脈と足背動脈の触診 近年は心臓の異常よりも血管の異常の方が多いのでスクリーニング診察として、動脈の触診は重要である。足背動脈は心臓から腹大動脈を経て末梢まで来ているのでここの拍動は全身の血管病変のスクリーニングとして有用である。動脈の疾患は下肢の方が頻度としては多いのだが、鎖骨下動脈の狭窄や閉塞を調べるために橈骨動脈の触診も行うべきである。少しでも異常を感じたら血圧測定を行い、より他覚的に記載するように心がける。たとえ、痺れや間欠性跛行といった症状があったとしても左右の上肢、下肢の動脈拍動に差がなければ有意な閉塞性動脈硬化症は否定ができるとされている。 頸静脈の視診 頸静脈の所見は右房の拍動に関連するといわれている。ショック症状の時、頸静脈の怒張がみられたら肺動脈血栓塞栓症が疑える。また右室の拡張期圧や肺動脈の圧が上昇しているとa波という鋭い拍動がみられる。この所見は急性心筋梗塞の場合は見られない。頸静脈の視診は内頸動脈で行うのが基本であるが、内頸動脈が見えにくい場合は外頚動脈を観察する。立位で内頸動脈が可視できれば静脈圧は上昇している(息こらえを行えば正常でも怒張する)。仰臥位45度では胸骨角から内頸静脈拍動の最高点までの高さが4cm以上であれば静脈圧は上昇していると考えられる。臥位では正常でも怒張と拍動がみられ、逆に怒張が見られなければ静脈圧の減少が考えられる。頸静脈の拡張が認められれば頸静脈波のどの波が優位かを判断する。頸静脈波はa波は右房の収縮、c波は三尖弁の右房への膨隆、x波は右房の弛緩、v波は右房への血液流入、y波は血液の右室への流入を示しているといわれている。頸静脈の怒張はa波、v波の高まりで生じると考えられている。I 音に一致すればa波であり、II 音に一致すればv波である。a波の上昇は三尖弁狭窄症、右室肥大、右心不全、肺高血圧症を示唆し、v波の上昇は三尖弁閉鎖不全症、心不全を示唆する。 頸動脈の触診 頸動脈の所見は大動脈の拍動に関連するといわれている。二峰性脈が見られる場合は大動脈弁下狭窄が疑え、遅脈がある場合は大動脈弁狭窄、速脈が見られる場合は大動脈閉鎖不全症が疑える。 心尖拍動の視診、触診 左側臥位にすると心尖拍動は触れるのが正常である。一般に心臓聴診は左側臥位の方がわかりやすいのでまず拍動やスリル(心雑音が触診されること)を触れてから聴診は開始する。 心尖拍動部の聴診 左側臥位で心尖拍動を触れた部位にベル型の聴診器を当てる。ベル型は低音成分聴取が得意であるため、III 音、IV 音、I 音の減弱がわかりやすい。同部位で高音成分聴取が得意な膜型に変えると僧帽弁閉鎖不全の雑音や大動脈弁閉鎖不全の雑音が聴取しやすい。 聴診部位の移動 心尖部から心基部へ移動しながら左室、右室、肺動脈、大動脈の各領域を聴取する。心雑音がある場合は雑音の最強点を特定する。左室領域とは心尖部や僧帽弁口(鎖骨中線第5肋間)であり、大動脈領域は大動脈弁口(胸骨右縁第2肋間)であり、右室領域は胸骨左縁下部や三尖弁口(胸骨左縁第4肋間)であり、肺動脈領域は肺動脈弁口(胸骨左縁第2肋間)である。雑音の放散部位も所見となる。心雑音が頸部に放散すれば大動脈弁由来、頚部ではなく背部に放散すれば僧帽弁由来である可能性が高い。
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