心血管のKATPと虚血性障害からの保護
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/06 01:49 UTC 版)
「ATP感受性カリウムチャネル」の記事における「心血管のKATPと虚血性障害からの保護」の解説
心筋虚血は、必ずしも直ちに致死的となるわけではないが、しばしば壊死による遅発性の心筋細胞死を引き起こし、心筋に永続的な損傷を与える。1986年にKeith Reimerによって初めて記載された方法では、大きな虚血傷害を起こす前に、患部組織を短時間(3–5分)の非致死的な虚血状態に置くことでこうした障害を軽減することができる。この方法は虚血プレコンディショニング(英語版)(IPC)として知られており、その効果は少なくとも部分的にはKATPチャネルの刺激によるものである。 IPCが最大の効果を発揮するためには、sarcKATPとmitoKATPの双方が必要である。5-ヒドロキシデカン酸(5-hydroxydecanoic acid、5-HD)またはMCC-134によるmitoKATP選択的な遮断によってIPCによる心保護作用は完全に阻害され、またsarcKATPの遺伝子をノックアウトしたマウスでは、野生型マウスと比べて基底レベルの障害が上昇することが示されている。この基底レベルの保護は、sarcKATPが筋収縮時に細胞内へのCa2+の過剰な取り込みの防止や力の発生の抑制によって、希少なエネルギー資源を節約することによるものであると考えられている。 sarcKATPが欠損すると、IPCの効果が低下するだけでなく、筋細胞のCa2+を適切に分配する能力が大きく低下し、交感神経シグナルに対する感受性が低下して、不整脈や突然死の素因となる。また、sarcKATPは血管の平滑筋の緊張を調節しており、Kir6.2やSUR2の遺伝子の欠失は冠動脈の血管攣縮(英語版)を引き起こし、死をもたらす。 心拍の調節におけるsarcKATPの役割の研究によって、このチャネルの変異体、特にSUR2サブユニットの変異体が、特に虚血/再灌流後の拡張型心筋症(英語版)の原因となることが発見されている。KATPチャネルの開口が完全に催不整脈作用を持つのか抗不整脈作用を持つのかに関しては、いまだ明らかではない。カリウムの伝導性の増加は虚血障害時の膜電位を安定させ、梗塞の範囲や異所性ペースメーカー(英語版)活性を減少させると考えられる。一方で、カリウムチャネルの開口は活動電位の再分極(英語版)を促進し、不整脈の再開を誘発する可能性もある。
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