常時開門に向けた準備
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 15:52 UTC 版)
「諫早湾干拓事業」の記事における「常時開門に向けた準備」の解説
福岡高裁の判決を受けて、国は開門に向けての準備を始める。2011年(平成23年)1月23日、当時の農林水産大臣と農林水産副大臣が長崎県を訪問して地元関係者と意見交換を行った。また開門した場合の環境への影響を調査するために環境アセスメントを実施し、2011年10月18日にアセス準備書、2011年8月21日に修正版となるアセス評価書、2011年11月22日にはさらに修正を重ねた「諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価書(補正版)」を取りまとめて公表した。2012年11月2日、農水省は、この事業で閉門中の水門の開門調査を2013年12月から実施する方向で長崎県側と最終調整する方針である事を発表した。これは前述の判決が2013年12月までに開門調査を始めるようにと命じたものであることによる措置である。 営農側に必要な工事 常時開門から営農側や諫早市民を守るために必要となったとされる工事は下記のとおりである。代替水源対策(海水淡水化処理施設6カ所建設、ため池3カ所設置)および送水パイプライン(全長12.7km):349億円 常時排水ポンプ所設置(9か所) 既設堤防の補強(67か所) 既設ゲート、桶管補修(計26カ所) 既設ゲートの電動化(10か所) 排水門への汚濁膜設置(5m×1500m) 塩害防止のための自走式スプリンクラーや散水設備設置 海水浸透を防止するための地中への鋼矢板打ち込み(地下4mまで) 当初は海水化して水源として使用できなくなる調整池の代替として地下水利用が提案されたが、過去に地下水の採取によって激しい地盤沈下が発生し、標高が低くなることによって水害も酷くなるという悪循環に苦しんでいた住民はこれを拒否した。2013年7月になって農水省は地下水利用案をあきらめ、349億円かけて海水を淡水化するプラントを建設する計画を提示した。海水淡水化プラントを使って農業をするという前例は乏しく、またこれら施設が完成しても、その後の維持には年間数十億円が必要とされることも懸念された。 漁業側に必要な工事 常時開門から漁業側を守るための工事もあった。開門直後から水門周囲に活発な水流が発生し、調整池に溜まったヘドロが一気に諫早湾へ拡散して漁業被害が発生することが懸念されていた。これを防止するために農水省の2003年の試算では、海底の補強や浚渫工事として630億円の費用が必要と見積もられていた。農水省幹部は、2010年の福岡地裁が指示した「3年以内に開門し少なくとも開門した状態を5年間維持せよ」という判決は、水門を常時全開で維持せよと解釈していた。農水省では不完全な開門(部分的ないし段階的な開門)を行えば、原告団から判決不履行として強制執行を求められることを恐れており、判決文の趣旨に忠実に開門を行う方針であった。後に開門当初は流量を制限してヘドロの拡散を防止する制限開門に方針を転換した。 しかし後述の佐賀地裁の判断や住民の反対運動、長崎県の非協力によって頓挫した状態になっている。これとは別に、国は湾の環境調査や漁業再生事業として2004年から2018年までに500億円を費やしている。
※この「常時開門に向けた準備」の解説は、「諫早湾干拓事業」の解説の一部です。
「常時開門に向けた準備」を含む「諫早湾干拓事業」の記事については、「諫早湾干拓事業」の概要を参照ください。
- 常時開門に向けた準備のページへのリンク