富の郊外化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/24 23:37 UTC 版)
産業革命後の欧米先進諸国の都市では、人口の多くが低所得な労働者で占められるようになり、集合住宅の狭い部屋に多数の人が住んでいたが、下水道が発達していない劣悪な環境のため、伝染病が多発していた。そのため、王族や富裕層は、都市郊外、もしくは都市から離れた田園地域の広大な土地に大邸宅を建てて住むようになった。近代化の中で、貿易や重化学工業等で富を得た新富裕層も、王侯貴族の例にならって、郊外や山の手地区(郊外の一種)に大邸宅をつくって住むようになった。 第二次世界大戦後、アメリカで中産階級が拡大し、国民の多くが低所得から脱却すると、前世代の貴族や富裕層を模倣して、生活環境が劣悪な都市部から、環境のいい郊外の庭付き一戸建てに住み替える、という「住宅革命」が起こった。これは、安価な自家用車の普及(モータリゼーション)や公共交通機関(バス、近郊列車)の発達、都市高速道路の発達という交通インフラの整備に大いに依存している。また、都市近郊の二束三文の田園地や丘陵地が、住宅地開発で莫大な富を生み、さらに、住宅建設に関わる産業の発展にも寄与するため、資本主義における産業発展・内需拡大策として、以降、他の資本主義諸国が次々と模倣した(日本では、マイホームより郊外立地型集合住宅が多いのが特徴)。 このように、可処分所得が増えた世帯が郊外に次々と移住する傾向は、「富の郊外化」を生み、郊外にロードサイドショップや大規模ショッピングセンターを立地させる動機となった。また、郊外と都心をつなぐ都市高速や近郊列車の設置は、郊外居住者に、都心周囲の劣悪な住環境地区を飛び越えて都心に通勤することを可能にし、都心周囲の低所得地区に対する政治的興味を低下させた。一方、都心周囲の富の低下は、都心周囲の地価・家賃下落に拍車をかけ、インナーシティの発生母地となった。 このような都市構造の変化は、北米の大都市で顕著に起こったため、北米の大都市の都心周囲には、大規模なインナーシティが形成された(ニューヨーク市のハーレム地区やブロンクス区、クイーンズ、ロサンゼルスのサウスセントラルなど)。なお、大都市部で郊外移住できたのが白人に多かったため、人種主義と関係付ける論者が見られる。
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