始まり:tRNAPheの結晶構造
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「分子生物学の歴史」の記事における「始まり:tRNAPheの結晶構造」の解説
1960年代中盤には、タンパク質合成におけるtRNAの役割が精力的に研究されていた。この時点では、リボソームがタンパク質合成に関与することが示唆されており、これらの構造を形成するためにはmRNAの鎖が必要であることが示されていた。1964年に発表された論文において、Johathan R. Warner とリッチは、タンパク質合成活性のあるリボソームはA部位とP部位にtRNA分子を含んでいることを示し、これらの分子がペプチド転移(英語版)反応を助けるという概念について議論した。しかし、かなりの生化学的な性状解析が行われたにも関わらず、tRNAの機能の構造基盤は謎のままであった。1965年ロバート・W・ホリーらは、初めてtRNA分子を精製してシーケンシングを行い、分子の特定の領域がステムループ構造を形成することに基づいて、tRNAがクローバー型の構造をとることを提唱した。tRNAの単離は、RNA構造生物学における最初の大きな「たなぼた」であった。ホリーの発表の後、多数の研究者が結晶学的な研究のためにtRNAの単離を行い始め、分子の単離の技術を改善していった。1968年までにいくつかのグループがtRNAの結晶を作り出していたが、品質的な限界のため、これらから構造決定に必要な分解能のデータを得ることはできなかった。1971年、Kimらがブレイクスルーを起こし、スペルミンを用いることで 2–3 Å の分解能で回折する酵母tRNAPheの結晶を作り出した。天然に存在するポリアミンであるスペルミンは、tRNAに結合して安定化した。しかし、適当な結晶があるにも関わらず、tRNAPheの構造がすぐに高分解能で解かれたわけではなかった。むしろ、重金属誘導体を利用する先駆的研究と分子全体の高品質な電子密度マップを作成することにより多くの時間がかかった。1973年、KimらはtRNA分子の 4 Å分解能のマップを作り出し、分子の主鎖を完全に明確にたどることができた。さまざまな研究者が構造の改善を試みるにつれて、塩基の対合やスタッキング相互作用はますます徹底的に明らかにされ、発表された分子構造が検証されていった。 tRNAPheの構造は核酸構造の分野で特筆に値するものである。というのもそれは、RNAであれDNAであれ、長鎖の核酸で最初に解かれた構造であり、リチャード・E・ディッカーソン(英語版)がB型DNA12量体の構造を解く10年近く前のことであった。また、tRNAPheはRNAの構造で見られる三次元的な相互作用の多くを示していた。それらの分類と完全な理解には数年を要し、すべての将来的なRNA構造研究に基盤を提供するものであった。
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