培養における細胞の維持管理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/11 22:45 UTC 版)
「細胞培養」の記事における「培養における細胞の維持管理」の解説
単離された初代細胞は、一般的に生存能力を保持しながらも、一定回数の細胞分裂の後に老化と分裂停止のプロセスへと至る。これはヘイフリック限界と呼ばれている。 細胞は、適切な温度と雰囲気下(動物細胞の場合、一般的に37℃、二酸化炭素濃度5%)、インキュベーター中で生育され保持される。培地の組成は、細胞型によって大きく異なる。また特定の細胞型に対して異なる培養条件を与えると、異なる表現型をもたらすことがある。 培養条件において温度と雰囲気の他に最も共通する変動因子は、培地成分である。pH、グルコース濃度、成長因子、その他の栄養素の有無などにより、培地の配合は変わる。培地添加剤としての成長因子は、しばしばウシ胎児血清 (FBS)、コウシ血清、ウマ血清、ブタ血清など動物の血液の血清から作られる。これらの血液由来成分は潜在的にウイルスやプリオンの混入により培地を汚染する懸念があり、特に医療向け生物工学の分野では問題となる。現在では、可能な限り動物由来原料を除去もしくは最小限にし、ヒト血小板溶解物(hPL)を使用することで、FBSをヒト細胞に用いた場合に起こりうる種間汚染の懸念を除いている。hPLは、安全で信頼できるFBSやその他の動物血清の代替品として用いられている。加えて、合成培地を用いることで、ヒトや動物由来血清を完全に除くことができるが、様々な細胞型に対して常に合成培地が適用できるとは限らない。その他の方法として、アメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランドなど、BSE/TSEの危険が低い国の動物の血液を用いたり、全血清の代わりに濃縮精製栄養成分を使用することが挙げられる。 播種密度(培養液単位体積あたりの細胞数)は、ある種の細胞型にとって重要な役割を果たす。例えば、顆粒膜細胞は、低い播種密度でエストロゲンを生産するが、高い播種密度では、プロゲステロンを生産する卵胞膜黄体細胞様を呈する。 浮遊培養もしくは接着培養にて細胞を増殖することができる。血液中に存在する類の細胞は表面に接着することなく自然に懸濁液中で生存する。また浮遊培養向け培地中で生き続けるように改変された細胞株は、接着培養よりも高い密度で生育させることができる。接着培養系細胞は表面を必要とするため、接着性を高め、成長と分化に必要なその他のシグナルを与えるために、(コラーゲンやラミニンなどの)細胞外マトリックスの構成物質で覆われた組織培養用プラスチックやマイクロキャリアなどの材料が用いられる。固体組織から得たほとんどの細胞は接着性である。接着培養のもう一つの種類は器官培養である。これは、2次元的なシャーレでの培養に対して、3次元の環境で細胞を培養する方法である。3次元培養システムは生物学的、生理学的により生体組織に近いが、多くの要因(例えば分散など)があるため、技術的に保持が困難である。
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