和音の比例と数的秩序
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/24 04:35 UTC 版)
「ルネサンス建築」の記事における「和音の比例と数的秩序」の解説
楽器が奏でる美しい和音の比例が、建築の美しさをも決定するという概念がルネサンス建築を特徴づける要素の一つである。数的秩序によって調和が生まれるという概念は今日においても理解しやすいものであり、その中には普遍的な要素があると言えるであろう。しかし、ルネサンス時代の比例調和の探求は、さらにルネサンス固有の様相を呈していたことに注意する必要がある。 現代では、一般に、あるものを美しいと感じるかどうかは人間の認識に依存し、美とはきわめて主観的なものと認識されている。しかし、ルネサンスの時代には、建築の美というものが単純な整数比に支配された幾何学的な構造によって、厳密に定義されると考えられていた。ルネサンス建築において、比例による数的秩序は音楽調和に関連づけられているが、これは音楽がすでに数学の一分野として、学芸として確立されていたことに起因する。音楽の聴覚比例と建築の視覚比例が密接に関連するという考え方は、単なる理論にとどまらず、実際に建築に応用された。 弦の長さが簡単な整数比になるような弦楽器の音を組み合わせると、心地よい和音になるという考えは古くから知られており、特定の整数比(1:2や2:3など)を神聖視する考え方は、万物の原理が数であるとするピタゴラスにまで遡ることができる。このような調和美について、ウィトルウィウスは『建築について』のなかで、劇場の設計方法として取り上げていた。ウィトルウィウスが整数比を劇場という特定の設計においてのみ語ったのに対し、レオン・バッティスタ・アルベルティはこれをさらに拡張して、2:3、3:4、1:2、1:3、1:4、8:9という数比を挙げ、これが目と耳を歓ばせるものであるとして建築形態の美や調和が生み出されるという考え方を定義した。これは ネオプラトニズムに基づくものであり、建築をより普遍的に記述しようとする意識の現れであった。 音楽の調和比例が視覚的美を決定するというアルベルティの考え方は、彫刻、絵画にも規定され、ルネサンスの学者や芸術家たちによって研究された。ウィトルウィウスの述べる調和比例の根本原理は人体に表されているという記述は特に注目され、フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、そして彼と親交のあった数学者ルカ・パチョーリらは、人体の比例と数的調和の象徴としてウィトルウィウス的人体図を賞賛した。 アンドレーア・パッラーディオも『建築四書』で同じようなことを記載している。彼が提示した建築比例はアルベルティほど論理的なものではないが、彼の提示した設計図には詳細にわたって建築比例が書き込まれており、より実践的な効果があった。全ての寸法比が理論的につじつまの合うものではないが、やはりその多くは調和音の比例に基づくものであり、後世に大きな影響を与えた。ルネサンスがフランス、イギリス、スペインに影響を与えるようになると、これら比例調和の概念も継承され、18世紀半ばまで美の体系として維持された。当時の建築家たちは、このような比例を建築に取り入れることが宇宙の秩序と信じ、絶対視していたのである
※この「和音の比例と数的秩序」の解説は、「ルネサンス建築」の解説の一部です。
「和音の比例と数的秩序」を含む「ルネサンス建築」の記事については、「ルネサンス建築」の概要を参照ください。
- 和音の比例と数的秩序のページへのリンク