古環境学と古生物理知学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 02:24 UTC 版)
「イリタトル」の記事における「古環境学と古生物理知学」の解説
イリタトルとアンガトラマはロムアルド累層(英語版)から知られ、層の岩石は約1億1000万年前の前期白亜紀アルビアンまで遡る。この時代には南南極海が開いており、円形の大西洋を取り巻くブラジル南部とアフリカ南西部の海盆を形成していたが、ブラジル北東部とアフリカ西部はまだ陸で繋がっていた。ロムアルド累層はサンタナ層群(英語版)の一部で、イリタトルが記載された頃はサンタナ累層とされていた層の部層と考えられていた。ロムアルド累層は化石が素晴らしい状態で保存される堆積層であるラーガーシュテッテで、頁岩に埋め込まれた石灰岩からなり、クラト累層の上に横たわる。石灰岩中に化石が立体的に保存されていることで有名であり、多くの翼竜化石でも知られる。翼竜や恐竜の筋繊維に加え、エラや消化物、心臓を保存した魚類も発見されている。この層は海水準の変動サイクルと競合する不規則な淡水の影響を受ける沿岸のラグーンであったと解釈されている。この層の気候は熱帯で、現在のブラジルの気候に大まかに対応している。層を取り巻く地域は乾燥地帯ないし半乾燥地帯で、大部分の植物相は乾生植物であった。ソテツ類と絶滅種の毬果植物門のブラキフィルム(英語版)が最も広がった植物であった 当時の環境はアンハングエラ、アラリペダクティルス、アラリペサウルス(英語版)、ブラシレオダクティルス(英語版)、ケアラダクティルス、コロボリンクス、サンタナダクティルス(英語版)、タペヤラ、タラッソドロメウス、トゥプクスアラ、バルボサニア(英語版)、マーラダクティルス(英語版)、トロペオグナトゥス、アンウィンディア(英語版)などの翼竜が支配的であった。イリタトル以外で判明している恐竜の動物相は、ティラノサウルス上科のサンタナラプトル、コンプソグナトゥス科のミリスキア、未同定のウネンラギア亜科のドロマエオサウルス科、マニラプトル類に代表された。アラリペスクス(英語版)やカリリスクス(英語版)といったワニ形上目やブラシレミス(英語版)、ケアラケリス(英語版)、アラリペミス、エウラキセミス(英語版)、サンタナケリスのようなカメが堆積層から知られている。また、カイエビ、ウニ、貝虫、軟体動物も生息していた。保存の良い魚類の化石記録としてはヒボドゥス科(英語版)のサメ、エイ、ガー、アミア科、オスニア科、アスピドリンクス科(英語版)、クラドキクルス科(英語版)、ソトイワシ科、サバヒー科、マウソニア科(英語版)や未同定の種が挙げられる。ナイシュらによると、植物食恐竜がいないことは、植生が乏しく大規模な集団を維持できなかったことを意味する可能性がある。個体数の多い肉食獣脚類は、その後豊かな水棲生物を主要な食糧源に変えた可能性がある。また、嵐の後には翼竜や魚類の死骸が海岸線に打ち上げられて獣脚類に膨大な腐肉が提供されたとも彼らは仮説を立てた。層には複数の魚食動物が生息し、熾烈な競争が起こった可能性もある。オーレリアノらは動物たちが間違いなくある程度生態的地位を分けていたと主張した。この見解では、ラグーンの中で動物たちは体格と生息地に合わせて獲物を変えていた。 ロムアルド累層とクラト累層の動物相は白亜紀中ごろのアフリカの動物相と類似しており、アラリペ盆地がテチス海と繋がっていたことが示唆されている。ただし、アラリペ盆地に海洋無脊椎動物がいないため盆地の堆積物は海洋性ではなかったことが示されており、テチス海とアラリペ盆地の繋がりは散発的であった可能性が高い。スピノサウルス科は既に前期白亜紀の間に拡散を遂げていた。セレノらは1998年に、テチス海が開いたためスピノサウルス亜科が南(アフリカ、ゴンドワナ)で、バリオニクス亜科が北(ローラシア)で進化したと提唱した。これに続き、2005年にはマカドとケルナーがスピノサウルス亜科はアフリカから南アメリカへ広がったと仮説を立てた。セレノらは南アメリカとアフリカでのスピノサウルス亜科の分岐進化は大西洋に起因する可能性が高いと推論し、大西洋の開口部が徐々に大陸を隔てて両分類群の差異に繋がったとした。同様のシナリオは2014年にブラジルの古生物学者マヌエル・A・メデイロスらがアルカンターラ累層の動物相に提唱しており、この層ではオキサライアが発見されている。しかし、スピノサウルス科の古生物地理学は仮説の段階かつ遥かに不確定のままであり、アジアとオーストラリアでの発見によりさらに事態は複雑であることが示唆されている。
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