南硫黄島の生態系の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/08 03:09 UTC 版)
「南硫黄島原生自然環境保全地域」の記事における「南硫黄島の生態系の特徴」の解説
南硫黄島の生態系の特徴としては、まず人間の影響がこれまできわめて希薄であったことが挙げられる。このため外来種と見られる生物は、2007年の調査によれば維管束植物では7種で、これはこれまで南硫黄島で確認された全維管束植物の5.4%にあたり、小笠原諸島内で比較的よく自然環境が保全されていると考えられている北硫黄島でも35種、21.0%の植物が外来種とされ、南硫黄島の数値がきわめて低いことがわかる。また植物以外で外来種と考えられるのはワモンゴキブリとコワモンゴキブリの2種のゴキブリ類くらいであり、南硫黄島の自然環境がこれまで人間にほとんど撹乱されていないことがわかる。南硫黄島が人間によってほとんど撹乱を受けていないことは、1982年と2007年の調査時にネズミ類の生息がまったく確認されず、南硫黄島にはネズミ類が生息していないことからもわかる。これは現在、小笠原諸島内では、聟島諸島の北之島、そして西之島以外にはネズミ類の生息が見られるとされ、生態系に悪影響をもたらしているが、南硫黄島ではこれまでネズミ類が存在しない状態が保たれている。 南硫黄島には淡水系が存在しないため、湿生植物、そして両生類やわずかな水たまりでも繁殖が可能である蚊がまったくいないなど、水生動物が見られないという特徴が見られる。なお蚊の種類によっては海岸のタイドプールでも繁殖する種が存在するが、南硫黄島では海岸線は大小の礫で形成されており、タイドプールが存在しないことも蚊が生息しない原因となっている。 南硫黄島の生態系には、面積や標高の割に生態系を構成する種が少ない。島に到着する種は偶然に左右される面が大きいため、近隣の島に見られない種が存在したり、逆に近隣の島で見られる種が存在しなかったりする。また花粉媒介性の昆虫が少なく、肉食動物や大型の食肉昆虫などが見られないなど通常の生態系から見て非調和な現象が見られるなどといった特徴がある。これらは大洋島の生態系で見られる典型的な特徴であり、南硫黄島が典型的な大洋島であることを示している。 また1982年から2007年までの25年間の間に外来植物のシンクリノイガが分布を広げたり、島の雲霧林が減少した可能性があり、700メートルから800メートルにかけては植生が変化した可能性が指摘されるなど、人の手が加わらない中でも生態系に変化が生じていることもわかる。 人間や外来種による撹乱にきわめて脆弱である大洋島の中で、これまで人間の影響を受けることがきわめて少なく、典型的な大洋島の環境がそのまま残されている南硫黄島は、多くの希少植物が生育する熱帯・亜熱帯性の雲霧林が存在し、クロウミツバメに代表される世界的に見ても希少な海鳥の繁殖地でもあり、今後とも人間の影響が加わらない状態で保護することを目的として、1975年5月には、自然環境保全法に基づき原生自然環境保全地域に指定され、さらに1983年6月、南硫黄島全体が原生自然環境保護地域の立入制限地区に指定されている。また、南硫黄島の自然保護体制は国際自然保護連合(IUCN)の自然保護地域カテゴリーの厳正保護地域(Ia)ならびに原生自然地域(Ib)に分類されており、国際基準的にも厳格な保護体制が認められている。
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