労働契約・就業規則・労働協約の関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/18 03:36 UTC 版)
「労働協約」の記事における「労働契約・就業規則・労働協約の関係」の解説
第16条(基準の効力) 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。 「就業規則#効力関係」も参照 効力の優先順位は優位のものから順に、法令、労働協約、就業規則、労働契約となる。使用者が一方的に作成・変更できる就業規則や、使用者と個々の弱い立場での労働者が結ぶ労働契約よりも、労働者の団体である労働組合が使用者と結んだ労働協約が優先する。労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となり、労働契約に定めのない部分についても、基準の定めるところによる(規範的効力、第16条)。また、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない(労働基準法第92条1項)と規定され、労働協約の就業規則に対する優先性を明らかにしている。 もっとも、労働協約が就業規則より優越するとはいっても、労働協約は原則として当該組合員にしか適用されないので、非組合員がいれば、均等待遇(労働基準法第3条)の要請から、実際には労働協約の趣旨に沿った就業規則の改定が行われなければ、労働協約の内容は実現できない(特に、労働協約によって労働条件を労働者の不利益に改定する場合に問題となる)。 労働協約に反する就業規則の内容については、所轄労働基準監督署長が当該労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる(労働基準法第92条2項)。しかし現実には労働基準監督署は行政指導での対応がほとんどで実際にこの規定に基づいて変更命令を出すことはまずなく、就業規則の届出(労働基準法第89条)に際して労働協約を添付することを求める法令上の規定もないため、この点についてのチェックは事実上不可能となっている。また変更命令は、就業規則を通して労働協約の拡張適用を強いるのに等しい結果となるため、併存する複数の組合が別々の労働協約を締結している場合には個々の組合の協約権の侵害として問題となる。 労働協約が失効した場合、労働協約の内容を反映して規定された就業規則がある場合には、当該協約失効後はその就業規則によるべき(いわゆる「余後効」)である(香港上海銀行事件。最一小判平成元年9月7日)。また、具体的な労働協約の内容が、どれほど組合員にとって不利益であっても、当該規定の内容が、特定のまたは一部の組合員をことさらに不利益に扱うことをあらかじめ目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結されたような場合以外は規範的効力に支障はない(朝日火災海上保険(石堂)事件。最一小判平成9年3月27日)。つまり、労働協約については、たとえ労働契約の定めた内容の方が労働者に有利であっても労働協約の効力が優先する(労使交渉は相互譲歩の取引であり、労働者に不利な合意のみを取り出して協約の効力を否定するのでは、労使交渉全体が成立しない)。一方、就業規則については、就業規則の定める基準に達しない労働条件を定める労働契約を無効にするが、基準を上回る労働条件を定める労働契約は無効にはならない。 第17条の規定は、同条所定の要件が満たされる場合には当然に適用されるものであって、拡張適用を受ける労働者が使用者と個々に結んでいる労働契約又はそれらの者に適用されている就業規則等の定の如何にかかわらない。そして、第17条の規定による労働協約の拡張適用は、労働協約としての効力をもって適用されるものである(昭和33年2月6日群馬県商工労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知)。
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