劣化分析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/04 23:30 UTC 版)
グリースの劣化分析の第一の目的は、グリースを塗布した潤滑面の潤滑状況を調査することと、その潤滑面の寿命について考察することである。機械部品の潤滑面の寿命および、寿命となる損傷形態やその原因は部品や運転条件によって千差万別である。使用前からのグリースの変化を分析することにより、その潤滑面が蓄積している損傷の形態や原因を特定できる。ただし、グリースの劣化が潤滑面の寿命の到達とは限らない。グリースが同程度に劣化したとしても、ある機械部品や運転条件では潤滑面は寿命となるが、別の場合では引き続き問題なく使用できることが多い。 グリース中の摩耗粉の定性・定量分析は潤滑面の潤滑状況の推定に役立つ。潤滑面の材料が鋼であれば鉄分、黄銅製保持器を有する転がり軸受の場合は銅分、樹脂材料の場合は樹脂成分が摩耗粉となり、定量分析で評価され得る。成分分析は錆やフレッチングなど、用途に特異的な損傷の検出も可能である。 グリースの劣化分析の第二の目的はグリースの劣化の程度を評価すること、そして劣化の原因を推定してその対策を決定することである。グリースの劣化がある程度まで進行するとグリースは十分な潤滑性能を失う(潤滑寿命に達する)。グリースの劣化評価において最も重要な分析項目は稠度である。稠度が増加してグリースが硬化、あるいは減少して軟化すると潤滑寿命となるためである。その他の検査項目として、一般的に、酸価や滴点、銅板腐食が初期値と比べて変化しているかで劣化は判定される。劣化の要因の特定には赤外分光法やフェログラフィ分析が用いられる。グリースの劣化要因は化学的要因(熱、酸化)、物理的要因(機械的剪断、熱、真空、遠心力)、異物の混入(摩耗粉、塵埃、水)の3つである。化学的要因および、摩耗粉や塵埃などによる異物の混入は赤外分光法で判定できる。物理的要因は残油分の定量および、電子顕微鏡による増稠剤の構造変化の観察で判定できる。水分の混入は水分試験で判定できる。 検査操作や分析装置にかけずにグリースの劣化を外見や臭気で判定できる場合がある。一般的にグリースは劣化すると、新品と比べて濃色となり、鼻がツンとするような酸っぱい臭いとなる。その他、明らかなグリース劣化の外観的特徴としては、表面に油が多量に浮く、鉄分の混入で黒色化、水分の混入でグリースが乳化、グリースから水が認められるなどである。 グリースは劣化により硬化(稠度低下)する場合と軟化(稠度増加)する場合のどちらもある。稠度の変化率が±15 - 20%以上である場合、一般的にグリースの交換を検討しなければならない。硬化の原因は遠心力による基油の分離、熱による増稠剤の重合などである。硬化の場合、潤滑面の焼き付きや摩耗が発生している可能性がある。軟化の原因は過剰な負荷による増稠剤の破断、または水の混入が多い。軟化の場合でも潤滑面から漏洩がなければ使用可能である。漏洩が見られれば速やかにグリースの補給や交換などが講じられる必要がある。 滴点は劣化に伴い低下する。一般的な基準では下記のようになると劣化と判定する。 カルシウム系 50℃以下 アルミニウム複合系 180℃以下 リチウム系 140℃以下 リチウム複合系 200℃以下 赤外分光法はグリース中の成分とその量を分析することができ、比較的簡易な判定方法である。また、酸化防止剤の残量が分かるため、試料がこのまま継続して使用できるか推定できる。劣化要因となる異物(異種グリース、摩耗により金属表面から分散した酸化鉄、樹脂やゴムなどのシール材から滲み出たエステルなど)の混入も検出できる。
※この「劣化分析」の解説は、「グリース」の解説の一部です。
「劣化分析」を含む「グリース」の記事については、「グリース」の概要を参照ください。
- 劣化分析のページへのリンク