制度論的な理由
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 09:36 UTC 版)
なにか重大な政治的問題が起きても、民主国家は普通選挙による政権交代という形で柔軟に対処できるために、国家体制として滅びる必要がないのである。先進民主国家は核武装しているため、外敵によって軍事占領され、抑圧的な政治体制を強制されることもない。将来、世界政府が生まれ、現在の民主国家が解体され、一州や一県となるということは大いにありうるが、その過程はイマニュエル・カントが民主的平和論で論じたように民主的な手続きによって行われ、武力征服や暴力革命という形で行われるのではない。民主政体と民主的イデオロギー(国民主権、門地の平等、基本的人権、議会主義、普通選挙、国民投票、複数政党制、思想・報道・言論・集会・結社などの各種政治的自由、一切の差別の撤廃)は、世界政府に受け継がれ、永遠に存続するのである。 また、ドイツのワイマール共和制がナチスの一党独裁に転化したように、合法的な手段やクーデターによって、民主体制が全体主義化する可能性も存在するという指摘もあるが、共産主義が崩壊した現代ではこの可能性はきわめて低い。ドイツがヒトラーによって全体主義化したのは、「共産主義のイデオロギー侵攻に備えるために、仕方なく一時的に言論、報道、集会の自由を停止する」という趣旨のものであり、もはや民主主義に敵対するイデオロギーが存在しない現代では、そのイデオロギー的侵攻を防ぐために自由を規制し、全体主義化するなどという論法は通用せず、ナチスのように国民的な支持を受けることはできないのである。同じように、武装勢力がクーデターを起こして、一時的に政治中枢を掌握したとしても、やはり国民的な支持を得られるイデオロギーが存在しないため、わずか数日でクーデターは失敗する結果となる。大災害で国家運営機能が一時的に麻痺したのと同じで、それは革命でも民主体制の崩壊でもないのである。また、ナチスドイツや日本軍国主義は、軍事的緊張感の高まる国際社会のなかでの戦時体制という側面もあった。政治的指導者を最高司令官として、国家全体が巨大な軍隊組織と化したのである。しかし、核ボタン1つで相手国を焦土化できる現代では、国家体制そのものを軍事体制化する必要性はなく、戦時下を理由に全体主義化するということは起こりえないのである。
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