函手圏とは? わかりやすく解説

関手圏

(函手圏 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/10 01:35 UTC 版)

圏論という数学の分野において、与えられた2つの圏の間の関手たちは関手圏(かんしゅけん、: functor category)と呼ばれる圏をなす。その対象は関手であり、は関手の間の自然変換である[1]。関手圏は主に2つの理由によって興味が持たれる:

  • よく現れる多くの圏は(暗に)関手圏であり、したがって一般の関手圏に対して証明された任意のステートメントは広く適用可能である;
  • すべての圏は(米田埋め込みによって)関手圏に埋め込まれる;関手圏はもとの圏よりもよい性質をしばしば持っており、もとの設定では利用可能ではなかった操作ができる。

定義

C小さい圏とし(すなわち対象たちや射たちは真クラスではなく集合をなす)、D を任意の圏とする。C から D への関手全体のなす圏は、Fun(C, D), Funct(C, D), [C, D], DC などと書かれ、対象として C から D への共変関手を持ち、射としてそのような関手の間の自然変換を持つ。自然変換は合成できることに注意:μ(X): F(X) → G(X) が関手 F: CD から関手 G: CD への自然変換で、η(X): G(X) → H(X) が関手 G から関手 H への自然変換であるとき、集まり η(X)μ(X): F(X) → H(X)F から H への自然変換を定義する。自然変換のこの合成(垂直合成と呼ばれる;自然変換を参照)によって、DC は圏の公理を満たす。

全く同様に、C から D への反変関手全体の圏を考えることもできる;これはFunct(Cop, D) と書かれる。

CD がともに前加法圏(すなわち射の集合がアーベル群であり、射の合成が双線型)であれば、C から D への加法的関手全体のなす圏を考えることができ、Add(C, D) と書かれる。

  • I が小さい離散圏(すなわち射が恒等射のみ)のとき、I から C への関手は本質的には I で添え字付けられた C の対象の族からなる;関手圏 CI は対応する積圏と同一視できる:元は C の対象の族で、射は C の射の族である。
  • 射圏英語版 C 対象は C の射で、射は C の可換正方形)は単に C2 である、ただし 2 は2つの対象を持ち恒等射と一方から他方への1つの射を持つ(逆向きの射は持たない)圏である。
  • 有向グラフは矢印の集合と頂点の集合と、矢印の集合から頂点の集合への各矢印の始点と終点を決める2つの写像からなる。すべての有向グラフの圏はしたがって関手圏 SetC に他ならない、ただし C は2つの射で結ばれる2つの対象からなる圏であり、Set集合の圏を表す。
  • 任意の G は対象が1つのすべての射が可逆な圏と考えることができる。すべての G 集合の圏は関手圏 SetG と同じである。
  • 直前の例と同様に、群 Gk 線型表現の圏は関手圏 k-VectG と同じである(ただし k-Vect k 上のすべてのベクトル空間の圏を表す)。
  • 任意の R は対象が1つの前加法圏と考えることができる;R 上の左加群の圏は加法的関手圏 Add(R, Ab) と同じであり(ただし Abアーベル群の圏を表す)、右 R 加群の圏は Add(Rop, Ab) である。この例により、任意の前加法圏 C に対して、圏 Add(C, Ab) を「C 上の左加群の圏」、Add(Cop, Ab) を「C 上の右加群の圏」と呼ぶことがある。
  • 位相空間 X 上の前層の圏は関手圏である:位相空間を対象が X の開集合で、UV に含まれるとき、かつそのときに限り U から V へのただ1つの射があるような圏 C と思う。すると X 上の集合(あるいはアーベル群、環)の前層の圏は C から Set(あるいは Ab, Ring)への反変関手の圏と同じである。この例により、圏 Funct(Cop, Set) は、位相空間から生じない一般の圏 C に対してさえも、「C 上の集合の前層の圏英語版」と呼ばれることがある。一般の圏 C 上のを定義するには、さらなる構造が必要である、すなわち C 上のグロタンディーク位相である。(SetC同値な圏を“前層圏”と呼ぶ著者もいる[2]。)

事実

D において実行できるほとんどの構成は、「成分ごと」に、C の各対象に対してバラバラに実行することで、DC においても実行できる。例えば、D の任意の2つの対象 XY X × Y を持つとき、DC の任意の2つの関手 FG は次で定義される積 F × G を持つ:C の任意の対象 c に対して (F × G)(c) = F(c) × G(c). 同様に、ηc: F(c)→G(c) が自然変換で各 ηc が圏 D において核 Kc をもつとき、関手圏 DC における η の核は、C のすべての c に対して K(c) = Kc なる関手 K である。

結果として、関手圏 DCD のほとんどの「よい」性質を共有するという一般的 rule of thumb英語版 がある:

  • D完備(あるいは余完備)ならば DC もそうである。;
  • Dアーベル圏ならば DC もそうである;

また次も成り立つ:

  • C が任意の小さい圏ならば、前層英語版の圏 SetCトポスである。

なので上の例から、有向グラフ、G 集合、位相空間上の前層の圏はすべて完備かつ余完備なトポスで、G の表現、環 R 上の加群、位相空間 X 上のアーベル群の前層の圏はすべてアーベル、完備、余完備であることがただちに結論付けられる。

先に述べた圏 C の関手圏への埋め込みは主な道具として米田の補題を用いる。C の任意の対象 X に対して、Hom(–, X)C から Set への反変表現可能関手とする。米田の補題は割り当て

が圏 C の圏 Funct(Cop, Set) への充満埋め込みであると言っている。したがって C は自然にトポスの中にいる。

同じことは任意の前加法圏 C に対して実行できる:すると米田は C の関手圏 Add(Cop, Ab) への充満埋め込みを生む。したがって C は自然にアーベル圏の中にいる。

上でのべた直感(D で実行できる構成は DC に「持ち上げる」ことができること)はいくつかの方法で正確にできる;もっとも簡潔な定式化は随伴関手のことばを用いる。すべての関手 F: DE は(F との合成により)関手 FC: DCEC を誘導する。FG が随伴関手の対であるとき、FCGC もまた随伴関手の対である。

関手圏 DC指数対象のすべての形式的な性質を有する;特に関手たち E × CDE から DC への関手たちと自然な1対1対応にある。関手が射であるすべての小さい圏の圏 Cat はしたがってデカルト閉圏である。

  1. ^ Mac Lane 1998, p. 40.
  2. ^ Tom Leinster (2004). Higher Operads, Higher Categories. Cambridge University Press. http://www.maths.gla.ac.uk/~tl/book.html 

参考文献

関連項目

外部リンク


函手圏

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/05/07 22:24 UTC 版)

自然変換」の記事における「函手圏」の解説

詳細は「函手圏」を参照 C を任意の圏、I を小さい圏とすると、I から C への全ての函手対象とし、それらの函手間の全ての自然変換を射としてもつ函手圏 CI構成できる。これが圏を成すのは、任意の函手 F に対して恒等自然変換 1F : F → F (これは各対象 X に F(X) 上の恒等射を対応させる)) が存在することと、二つ自然変換合成上述の「垂直合成」)がまた自然変換となることによる。 函手圏 CI における同型とは、自然同型のことに他ならない。つまり、自然変換 η: F → G が自然同型であることと、ηε = 1G かつ εη = 1F なる自然変換 ε: G → F が存在することとは同値である。 I が有向グラフから生じるときの函手圏 CI は特に有用である。例えば I が有向グラフ • → • の与える圏のとき、CI は C のすべての射を対象とし、CI における二つ対象 φ : U → V と ψ: X → Y の間の射は C における射 f: U → X および g: V → Y の対で「矩形可換」つまり ψf = gφ を満たすもので与えられるより一般に 2-圏 Cat が 0-胞(対象): 小さい圏、 1-胞(射): 二つ対象 C, D に対して C から D への函手 2-胞: 二つの 1-胞(函手)F: C → D, G: C → D に対して F から G への自然変換 なるものとして構成できる。 平および垂直合成先に述べた自然変換の間の合成である。函手圏 CI は、従って(小さい圏かどうかはさておけば)単にこの圏におけるホム圏である。

※この「函手圏」の解説は、「自然変換」の解説の一部です。
「函手圏」を含む「自然変換」の記事については、「自然変換」の概要を参照ください。

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