人間社会の存続・発展の基礎の解明:マルクス経済学への顕著な関心
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神戸経済大学では、数理経済学の水谷一雄に師事。学部時代には、マルクス経済学の講義を受けた事はなく、『資本論』を一人で読む程度であった。1950年に卒業と同時に新制神戸大学の助手として迎えられる。卒業直後から1年間、サナトリウム(近江八幡市の近江兄弟社が経営する結核療養所)で療養中にジョン・ヒックス『価値と資本』を研究するが、同時期に近代経済学の研究を続ける事に疑問を感じ、マルクス経済学への関心を深める。 置塩の処女作は『再生産の理論』(1957年)である。当初「雇傭理論」の執筆を求められていたが、彼は主題を「再生産の理論」に変えた。その「弁明」に置塩の思想の核心がよく表現されている。「私たちは資本主義社会に生れ、この社会に生きてきたので、資本主義社会での特殊な出来事(たとえば雇用――引用者)になれ親しんで、これに対して奇妙さや疑問を感じることが殆んどない。奇習の行われている社会に埋没している人間には奇習は決して奇習ではなく正統的なことである。少くとも社会科学者は奇習の行われている社会に生れ、かつ死んでゆきながらも、奇習を奇習として驚き、究明してゆかなくてはならない。」ここから、次の問いが生まれる。「社会形態がいかに相違しようとも、そのことなくしては社会の存続、発展が不可能となる事柄はなにか。」これへの回答が「再生産」であった。 英文論文集 "Essays on Political Economy: Collected Papers" (PETER LANG 1993) の「はしがき」の冒頭にきわめて印象的な言葉がある。「第2次世界大戦は、とりわけ社会現象に関して、私から理性的な思考を奪った。しかし、それは研究すべき多くのものを与えてくれた。ヒロシマ・ナガサキのあと、私は経済学の研究を始めた」(翻訳―引用者)。ここには端緒における研究の動機が端的に表現されている。結果として置塩が残したものは、その核心において、きわめて抽象的な数理経済学の体系である。それは人を容易に寄せ付けない。しかし、そうした抽象的な理論の背後には現実に関する生きた表象があるに相違ない。その中核には、核兵器の使用を含む現代の戦争があるであろう。置塩理論は現代社会のリアリティとどのような形でつながっているか、あるいはつながりうるか。この点の探究は、「科学としての経済学」の現代的意義を考えるうえで、最重要な課題の1つであろう。
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