五重塔の耐震性について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/11 05:29 UTC 版)
五重塔の耐震構造である「柔構造」は近年、日本はもちろん世界の超高層建築に採用されている。しかし、日本古来の五重塔が耐震性が高いとする根拠は歴史上地震により倒壊した例がこれまでなかったためで、現状では結果論の域を出ておらず、建設時に意図的に柔構造に設計されたかも定かではない。むしろ、仏舎利塔という五重塔の役割を考えればその構造は宗教的な意味合いが第一に意図され柔構造は副次的な産物である可能性が高いと思われる。実際、法隆寺等の古い五重塔では腐食が確実であるにも関わらず心柱のみ地面に埋没させる掘立柱としたり、城郭建築等と異なり貫柱等を一切通さないなど、建築構造としては合理性を欠いている。 五重塔の耐震性においてキーワードとなっているのが「心柱」であるが、五重塔は建築構造としては心柱に全く依存していない。また、内部空間の利用が考慮されていないため、構造材の密度が高く一般的な建築と比べて強固な建築となっている。実際、現在の法隆寺五重塔は心柱が腐食して地面に接していないことからもわかるように、建築構造としては心柱が存在しなくても問題なく成立する。なお、耐震性が高い理由は以下のような説がある。 心柱振動吸収説 近年まで五重塔の中心を貫く心柱が地面や下層の床に固定されないため、これが各層の揺れを吸収する「心柱振動吸収説」が有力な説となっていた。しかし、このような構造は江戸時代以降の構法であり、それ以前の五重塔についてはこの説では説明することができない。懸垂式の心柱にしても、接地面にズレ止めの太枘が施設されてあり、振り子としての制震作用には疑問の余地が残る。 閂(かんぬき)説 心柱が扉を固定する「閂」のように揺れを拘束する役割を持つという説。この場合、心柱が周囲の部材と接触し逆に部材を破壊する要素ともなり得るため、制震方向のみに作用させるには極めて高度な設計が必要であり、どちらに作用するかは実際には運次第である。 耐震性に関しては、未だ解明されていない部分が多いが、近年には工学的に解明するため、建築構造研究者のグループ「五重塔を揺らす会」を中心にして5分の1模型による振動実験が行われ、2006年には心柱の有無による比較実験が行われた。その結果、阪神・淡路大震災クラスの揺れでは心柱は塔の変形や揺れを抑制する効果が見られるものの、閂効果は現れず、心柱の有無に関わらず耐震性は極めて高いことが明らかとなった。ただし、阪神・淡路大震災を超える地震で心柱が閂効果を発揮するかは不明である。また、五重塔の耐震性が高い最大の理由は「高層」であることで、固有の周期が長くゆっくりと揺れるため、地震の周期と合致しにくいことがわかった。 なお、東京スカイツリーを設計した日建設計はこの制震システムの形や構成が「五重塔心柱」に似ているので五重塔になぞらえて、「心柱制振」と呼んだが、マスコミにより五重塔の技術が応用されたかのように報道された。しかし、上述の通り、五重塔の耐震性は未解明の部分が多く、技術的に利用することはできず、実際には「質量付加機構」という現代の制振技術を応用したものである。
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