ユーロ自体の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/11 08:47 UTC 版)
「ギリシャのユーロ圏離脱」の記事における「ユーロ自体の問題」の解説
ユーロは導入当初から問題があった。その共通通貨は経済と全く関係が無く、そもそも政治的なプロジェクトだった。ユーロが形成されて以後の経済成長率は明らかに鈍化した。ドイツのような大国はユーロというシステムで得をしたが、貧しい国々はさらに悪くなった。また政治的にもウクライナ問題などにEUは何もできないことを示した。欧州連合は2010年のギリシャへの最初の金融支援において、より多くの負債を帳消しにするべきであった。オリヴィエ・ブランチャードも、EUとギリシャ間の交渉が非現実的だと考え、ギリシャの負債を帳消しにすることを交渉の議論の焦点にするよう求めている。 欧州が最適通貨圏では無いことはしばしば指摘されてきた。域内の労働移動性にしても、例えば1990年代の居住地域の変更率(人口に対する比率)はドイツが1.1%、イタリアが0.5%であり、アメリカ合衆国の3.1%には遠く及ばない。欧州域内とは違い、米国内では同じ言語が使われているわけであるから当然である。またユーロ圏の金融政策はECBによって決められ、ユーロ圏各国は独自の金融政策をとることができない。ユーロ圏加盟国間では固定相場制であるため、貿易のインバランスが生じても、為替レート変動による調整メカニズムは働かない。そしてユーロ圏の加盟国が不況に陥ったときに、自国通貨を切り下げて輸出ドライブをかけて経常収支を改善させることができなくなる。米国においても各州で同じ通貨、すなわちUSドルを使っているが、経済が相対的に弱い州には自動的に米国連邦政府が経済援助をする仕組みとなっている。これは米国の財政連邦主義と呼ばれる。ユーロ圏ではこうした財政連邦主義がないので、ドイツのように経済的に強い地域がその他の加盟国を支援する仕組みがないのである。 ノーベル賞経済学者ジェームズ・トービンは2001年の段階で既にユーロが内包する問題点を指摘していた。ユーロ圏参加国と米国の各州を比較すると、両者ともに金融政策の主権はない。だがユーロ圏のECBと米国のFRBを比べれば、EMUの条項によってECBはユーロ域内の物価安定に力を注ぐことを強いられる。物価の安定だけに政策焦点がおかれるあまり、失業への対策がおろそかになるのである。一方、FRBの政策は失業対策と実質経済成長に比重がおかれているゆえに、欧州よりも米国の方が失業率は低い。財政政策に関して、ユーロ加盟国はマーストリヒト条約やEMUの規則に従わなければならず、各加盟国は財政赤字をGDPの3%以内に抑えることが義務となっている。この義務はたとえ加盟国内外で景気後退が起こったときにも果たさなければならない。よってユーロ加盟国が不況に陥ったときにその義務が足かせになるため、財政拡張によっての景気回復を望めなくなる。一方、米国の各州では資本形成のための公的支出であれば支出の上限は無いので、学校や高速道路建造などに投資することができる。 「フィリップス曲線」も参照 ノーベル賞経済学者クリストファー・ピサリデスは、ユーロという共通通貨システムのために、ユーロ圏各国の失業率が高止まりし、各国が低成長に苦しみ失われた世代が作り出されていることを指摘した。ピサリデスはユーロ圏を秩序立てて解体させるべきと唱えた。
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