ブロンズの『ダヴィデ像』
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「ダヴィデ像 (ドナテッロ)」の記事における「ブロンズの『ダヴィデ像』」の解説
ドナテッロが1440年ごろに制作したブロンズ製の『ダヴィデ像』は、ルネサンス期に制作された最初の自立するブロンズ彫刻であり、古代ギリシア・ローマ時代以降で制作された最初の男性裸像として有名な作品である。ダヴィデは謎めいた微笑をうかべ、倒したばかりのゴリアテの首を左脚で踏みつけている。若きダヴィデはほぼ完全な裸体で、身につけているのは月桂樹で飾られた兜と長靴、そしてゴリアテから奪い取った剣のみである。 この『ダヴィデ像』はメディチ家の依頼で制作されたもので、完成後はフィレンツェのメディチ・リカルディ宮殿 (en:Palazzo Medici Riccardi) の中庭中央部に置かれた。これはメディチ家が、都市国家フィレンツェの象徴たるダヴィデの後継者は自身たちメディチ一族であると自負していたためである。しかしながら、国家を象徴する英雄の像を自身の邸宅に設置することは、当時大きな非難を浴びる可能性があり、ドナテッロはこの彫刻がダヴィデではなく「単なる彫刻作品」であると言い逃れするための改変を施している。たとえば、ゴリアテとの戦いに望むダヴィデは全裸だったはずだが、この彫刻の人物は兜と長靴を身につけていること、足元のゴリアテがかぶっている兜には尖った羽飾りがあり、兜の羽飾りはギリシア神話のヘルメスを特徴付けるとされることなどである。フィレンツェを支配していたメディチ家は1494年の政変でフィレンツェから追放され、『ダヴィデ像』はメディチ・リカルディ宮殿から、ドナテッロの大理石製『ダヴィデ像』が安置されていたヴェッキオ宮殿へと移された。その後17世紀にピッティ宮殿、177年にウフィツィ美術館、そして1865年にバルジェロ美術館と所蔵場所が変遷している。 ジョルジョ・ヴァザーリの著書『画家・彫刻家・建築家列伝』には、『ダヴィデ像』がメディチ・リカルディ宮殿中庭中央の、デジデーリオ・ダ・セッティニャーノがデザインした円柱の傍らに置かれており、円柱には『ダヴィデ像』が政治的記念碑としていかに重要な意味を持つかという銘が刻まれていたという記述がある。この銘は「勝利は祖国を守護する者すべてにもたらされる/神が邪悪な敵を打ち砕く/見よ、大いなる暴君を妥当した少年を。勝利は民とともに (Victor est quisquis patriam tuetur/Frangit immanis Deus hostis iras/En puer grandem domuit tiramnum/Vincite cives) というものだった。この『ダヴィデ像』に政治的意図があったことは多くの研究者が認めているが、こめられているであろう正確な意図に関しては多くの見解があり、定説となっているものはない。 ほとんどの研究者が『ダヴィデ像』の依頼主はコジモ・デ・メディチであるとしているが、『ダヴィデ像』の制作年度ははっきりとせず、議論の的となっている。1420年代から1460年代まで様々な説があり、そのなかでも主流となっているのは、ミケロッツォ・ディ・バルトロメオが設計したメディチ・リカルディ宮殿が建築された1440年代とする説である。図像学的観点からすると、このブロンズ製『ダヴィデ像』は大理石製『ダヴィデ像』の延長線上にある。若き英雄ダヴィデは片手に剣を持ってたたずみ、その足元には刎ねたゴリアテの首が転がっている。しかしながら、外観としては二つの『ダヴィデ像』は全くの別物である。ブロンズ製の『ダヴィデ像』は兜と長靴以外全裸で、ひどく華奢な体つきをしており男性的な印象はまったく与えない。頭部の表現は古代ローマ皇帝ハドリアヌスが寵愛した彫刻家アンティノウスの影響を受けているといわれている。メアリー・マッカーシーが「服装倒錯であり、性的倒錯者を魅了する両性具有」と呼んだダヴィデの身体は、ゴリアテの巨大な剣と対照的に肉体を表現することによって、ダヴィデがゴリアテを打ち負かしたのは身体的能力ではなくすべて神の意思であるということを表し、重武装の巨人兵ゴリアテとは対極である全裸の少年ダヴィデが神の存在をさらに明確にしているのである。また、この彫刻のダヴィデにはユダヤ教徒であれば通例であるはずの割礼がなされていないが、これはルネサンス期のイタリアで制作された男性裸像をモチーフとした美術品に共通する特徴である。
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