ノルウェーの家事調停
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 04:00 UTC 版)
ノルウェーでは、親責任、監護及び面会交流について、児童法(1981年4月8日法律第7号)に基づく家事調停が行われている。 16歳未満の血縁関係のある子を持つ両親 は、主務省令で定める例外に当たる場合を除き、親責任、監護又は面会交流に関する訴えを提起する前に、調停 をしなければならない(児童法51条1項、4項)。16歳未満の血縁関係のある子を持つ夫婦は、別居命令又は離婚命令を得ようとするときは、主務省令で定める例外に当たる場合を除き、家庭相談所の調停又はその他の認定調停人による調停をしなければならない(同条2項、4項)。16歳未満の血縁関係のある子を持つ共同生活者 は、関係が破綻したときは、調停をすべきものとされている(同条3項、4項)。 調停には原則として当事者が自ら出席しなければならず、調停人が別席調停を相当と認めた場合を除き、同席調停が原則である(同法53条)。当事者は、調停人の下で調停に出席して1時間が経過したときは、調停人から調停証明書の発行を受けることができる(同法54条第1文)。1時間が経過しても当事者間に合意が整わないときは、調停人は、当事者に対し、更に最大3時間調停を続けるよう勧めるものとされている(同条第2文)。それでも当事者間に合意が整わないが、合意が整う見込みがあるときは、調停人は、更に3時間調停を続けるよう提案することができる(同条第3文)。 当事者間の親責任、監護及び面会交流に関する合意は、書面に記載する(同法52条前段)。子の普通裁判籍のある地の県知事は、合意によって子の最善の利益が最優先で守られると認めるときは、当事者の共同申立てにより、書面による合意に同法65条に定める執行力を付与することができる(同法55条1項第1文、3項)。県知事は、必要なときは、専門家、児童福祉局又は社会福祉局に意見を求めることができる(同条1項第2文)。 調停証明書は6か月間有効である(同法54条第4文)。子の両親が親責任、監護又は面会交流に関する訴えを提起しようとするときは、有効な調停証明書を提示できなければならない(同法56条)。 親責任、監護又は面会交流に関する訴えが提起されたときでも、裁判所は、本格的な審理に入る前に、当事者を認証調停人又は争点に関する洞察を有する者の行う調停に付することができる(同法61条1項2号第1文)とされている。実務上は同項1号に基づき、事件の審理を担当する裁判官が専門家を選任して、当該専門家に調停を行わせ、又は当該専門家とともに調停を行うのが通例である。 アンナ・ナイルンド は、ノルウェーの家事調停の最も重要な欠点は、家族の葛藤の程度に応じた多様な選択肢を用意していないことにあると論じている。すなわち、ノルウェーは北欧諸国の中で唯一調停前置主義を採用する法域であるが、離婚しようとする家族が子の監護に関する訴えを提起する割合は他の北欧諸国とほぼ同じであり、家事調停がADRとしての効用を発揮していない。低葛藤の家族は当事者間で、あるいは裁判所と無関係な者の仲介で紛争を解決するから、公的機関は、紛争解決の場ではなく情報を提供すべきである。中葛藤の家族は、いきなり話し合うのではなく、話し合い方を学び、「子の最善の利益」という考え方に気づくための親教育をまず行うべきであるから、調停を1時間義務付ける程度では足りず、7時間でも不十分であろう。高葛藤の家族には合意支援ではなく、子の虐待や育児放棄、家庭内暴力などの問題に焦点を当てた介入が必要である。ノルウェーの家事調停には、問題状況に応じた手続の振り分けという概念が欠けていると言うのである。
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