チェックポイントの不活性化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/16 10:03 UTC 版)
「紡錘体チェックポイント」の記事における「チェックポイントの不活性化」の解説
姉妹染色分体の正しい二方向型接着がなされた後にSACを不活性化する機構はいくつか存在する。微小管-キネトコア間の接着に伴って、ダイニン複合体によるstripping(引きはがし)機構によってSACタンパク質はキネトコアから遠くへ輸送される。引きはがされるタンパク質にはMad1、Mad2、Mps1、CENP-F(英語版)が含まれ、その後これらは紡錘体の極に再分布する。Strippingの過程は、未損傷の微小管構造と、微小管に沿ったダイニンの運動性に高度に依存している。p31cometはC-Mad2のポジティブフィードバックループの調節因子として機能するとともに、SACの不活性化因子としても作用する可能性がある。未接着のキネトコアは一時的にp31cometを不活性化するが、接着によって(おそらくリン酸化を介して)再活性化されてMad2の活性化を阻害する。他のSAC不活性化機構としては、Cdc20の非分解性ユビキチン化によるMad2-Cdc20複合体のエネルギー依存的な解離によるものがある。逆に、脱ユビキチン化酵素プロテクチン(英語版)はSACの維持に必要である。未接着のキネトコアは継続的にMad2-Cdc20サブ複合体を再形成することによってチェックポイントを維持している。SACはAPCの活性化によるタンパク質分解によっても不活性化される可能性がある。サイクリンBのタンパク質分解とCDK1/サイクリンBの不活性化もSACの活性を阻害する。後期におけるMps1の分解は、姉妹染色分体間の接着の除去後のSACの再活性化を防ぐ。チェックポイントの不活性化後や細胞周期が正常に後期へ移行した場合、APCはMCCの活性の低下によって活性化される。このとき、酵素複合体は後期阻害因子であるセキュリンをポリユビキチン化する。セキュリンのユビキチン化と分解によって、セパラーゼと呼ばれるプロテアーゼが放出される。セパラーゼは姉妹染色分体を保持している接着分子を切断し、後期を活性化する。 キネトコアでの末端型の微小管接着がSACシグナル伝達の特定の段階を破壊する過程の説明として、新たな機構も提唱されている。未接着のキネトコアでは、MCC形成の第一段階はキナーゼMps1によるSpc105(英語版)のリン酸化である。その後、リン酸化されたSpc105は下流のシグナル伝達タンパク質である、Bub1、Bub3、Mad1、Mad2、Mad3、Cdc20をリクルートすることができるようになる。未接着キネトコアでのMad1との結合はMad2のコンフォメーション変化を引き起こし、O-Mad2からC-Mad2へ変換される。Mad1に結合したC-Mad2はその後、他のO-Mad2分子と二量体化し、Cdc20周辺でのC-Mad2への変換を触媒する。このC-Mad2/Cdc20複合体は、他のMCCが形成されるようキネトコアにMad1とC-Mad2を残して解離する。MCCはそれぞれ2分子のCdc20を隔離し、APC/Cとの相互作用を防ぐことによってSACを維持している。Mps1によるSpc105のリン酸化はSACシグナル伝達経路の開始に必要かつ十分であるが、この段階はキネトコアへの微小管接着が存在しない場合にのみ起こる。内在性のMps1はNdc80のカルポニン相同ドメイン(英語版)(CHドメイン)と相互作用することが示されており、Ndc80は染色体から離れたouter kinetochore領域に位置している。Mps1はouter kinetochoreにつながれているが、Ndc80の柔軟なヒンジ領域によってinner kinetochore内に局在しSpc105をリン酸化することができる。新たな提唱機構である機械的スイッチモデルでは、微小管のキネトコアへの末端型結合は2つの機構によってSACを不活性化するとされている。接着された微小管はNdc80のCHドメインとSpc105の間の距離を広げる。さらに、接着された微小管の周囲にリングを形成する、160のタンパク質からなる巨大複合体Dam1/DASH複合体が2つのタンパク質の間の障壁として作用する。この分離によってMps1とSpc105の間の相互作用が妨げられ、SACシグナル伝達経路は阻害される。 このモデルは動物を含むより高等な生物でのSACの調節には当てはまらないことに留意しておくことは重要である。出芽酵母のキネトコア構造には1本の微小管しか接着しないが、動物のキネトコアは多数の微小管の結合部位を含むはるかに複雑な網目構造をしている。そのため、SACの不活性化と後期への移行には、キネトコア結合部位のすべてに微小管が付着していることは必要とされない。すなわち、動物のキネトコアでは、SACが阻害されている間、微小管に接着した状態と接着していない状態が共存している。このモデルには、接着したキネトコアに結合したMps1が隣接する未接着キネトコアのSpc105をリン酸化するのを妨げるような障壁機構が含まれていない。さらに、酵母のDam1/DASH複合体に相当する複合体は動物細胞には見つかっていない。
※この「チェックポイントの不活性化」の解説は、「紡錘体チェックポイント」の解説の一部です。
「チェックポイントの不活性化」を含む「紡錘体チェックポイント」の記事については、「紡錘体チェックポイント」の概要を参照ください。
- チェックポイントの不活性化のページへのリンク