ストーリー構成と演出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 09:43 UTC 版)
「サブリナ (コミック)」の記事における「ストーリー構成と演出」の解説
オルタナティヴ・コミック作家クリス・ウェアは本作の周到な構成を高く評価した。あからさまなプロットは展開されず、静かで不穏なシーンが続けて提示されるのみで、読者はそれらをつなぎ合わせて一つの物語を組み上げなければならない。ウェアはこの構成について、現実世界の不透明さや、自己存在から目をそらすため犯罪報道に熱中する心理を連想させると述べている。モノローグやナレーションは徹底して避けられており、登場人物の内面を窺い知ることはできない。主人公たちや背景の人物がいつ突発的な暴力に傾くか予想できず、緊迫感は高まる。そして物語中には情報の欠落や矛盾があり、読者はサブリナがたどった運命について憶測を働かせるよう誘導される。ウェアはこれを、読者を作中の陰謀論者たちと「同罪にする」仕掛けと呼んだ。 登場人物の感情表現は強く抑制され、クリシェやセンセーショナリズムに陥ることは避けられている。作者ドルナソは激しい感情描写が本作にはふさわしくないと考えていた。登場人物の顔からは感情がわずかに垣間見えるのみで、例外的に感情が高まるシーンでもクローズアップは用いられず、髪が顔を隠したり、視点が遠ざかったりする。しかしこれらの抑えた演出は、むしろ苦しみの深さやそれを表出することの難しさを感じさせ、読者の共感を引き出すことに成功している。 冒頭からサンドラが男性に付きまとわれた体験を語っているように、本作は暴力の気配に満ちている。しかしそれはあからさまな視覚的描写によらずに表現される。残虐な行為はコマの外で行われ、動画を視聴した人物の反応や、ウェブブラウザのサイドバーを通じて間接的に示される。もしくは暴力の予期が高められるだけで実際には起こらずに終わる。ニュースでは9・11テロ記念日の追悼者が淡々と報じられ、殺害現場の描写では「盛り上がった毛布と、静かに赤く染まったバスタブの水」が不条理な暴力への恐怖を呼び起こしている。 基地のシーンにさりげなく置かれた監視カメラや、カルヴィンの住居が数カ月前に妻子が出て行ったまま片付けられていない描写のように、背景がストーリーテリングの手段として効果的に用いられている。ここでも余計なものは削ぎ落とされている。たとえばガソリンスタンドのシーンでは主人公の車以外に数台の車が停まっているのが自然だが、本作では敢えて一台も描かれていない。その一方で、舞台となる郊外の情景には、周辺の街並みや調度品の細部にいたるまで詩的な視線がはたらいている。
※この「ストーリー構成と演出」の解説は、「サブリナ (コミック)」の解説の一部です。
「ストーリー構成と演出」を含む「サブリナ (コミック)」の記事については、「サブリナ (コミック)」の概要を参照ください。
- ストーリー構成と演出のページへのリンク