カニクサ科とは? わかりやすく解説

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カニクサ属

(カニクサ科 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/17 04:31 UTC 版)

カニクサ属
分類PPG I 2016)
: 植物界 Plantae
: 維管束植物門 Tracheophyta
亜門 : 大葉植物亜門 Euphyllophytina
: 大葉シダ綱 Polypodiopsida
亜綱 : 薄嚢シダ亜綱 Polypodiidae
: フサシダ目 Schizaeales
: カニクサ科
Lygodiaceae M.Roem. (1840)
: カニクサ属 Lygodium
学名
Lygodium Sw. (1801) nom. cons.
タイプ種
Lygodium scandens (L.) Sw.
シノニム
英名
climbing fern[1]

カニクサ属(カニクサぞく、学名Lygodium) は、薄嚢シダ類フサシダ目に属する大葉シダ植物の1属。1枚の葉が先端で無限成長することで、蔓性になるシダ類である[2]

本属は、かつて日本の図鑑等で広く用いられていたコープランドの分類体系 (1947) などではフサシダ科 Schizaeaceae に分類されていた[3]。近年の分類体系ではいずれも独自のに置き、カニクサ科(カニクサか、学名Lygodiaceae)とされる[3][4]

形態

L. palmatum のスケッチ。葉は部分二形を示す。左中央は胞子嚢。

生活型は地上生で、状になる[1]被子植物の一般的な蔓はシュートであるが、カニクサ属の蔓は1枚の葉である[5]

根茎は地下を匍匐して伸び、その表面に硬い有節毛が生えるが、鱗片はない[1][2][6]。径は細く、二又分枝を行う[1]。茎や根は原生中心柱を持つ[1][7]。また背腹性を持つ[1]

葉は茎の背面から1列並んで生じる[1]。地上に出たは無限成長して数メートル以上にも伸び、他物に巻き付いて這い上がる[2][6][1][8][注釈 1]。葉の先端に無限成長する葉頂端幹細胞が存在する[5]。これが数年にわたって分裂を続ける[9]。中軸から分岐する一次羽軸は短く、先端が成長をやめて休止芽となる[2][6]。休止芽は毛に覆われ、左右1対の羽片を付ける[2][6]

カニクサ Lygodium japonicum の葉の羽片の分岐
葉の先端部には葉頂端幹細胞が存在し、無限成長を行う。
1つの羽片に、1対の小羽片が生じる。
小羽片の対の間にある羽片先端部の休止芽。

芽の左右に突き出す小羽片は更に分かれて羽状掌状に裂片をつけ、叉状や網状にもなる[6]。カニクサでは小羽片が2回羽状複生するため、1枚の葉は4回羽状複生する[10]イリオモテシャミセンヅルでは羽片が単羽状裂し[2]、1枚の葉全体は3回羽状複生する[10]。葉脈は遊離するか、網状となる[1][2]

カニクサ属 Lygodium の羽片の形状の多様性
L. palmatum
小羽片が単葉掌状深裂のもの
L. radiatum
小羽片が掌状複葉状のもの
L. volubile
小羽片が1回羽状複生のもの
L. articulatum
小羽片が叉状に分岐するもの

葉は部分二形を示し、1つの栄養葉の中で裂片の形が変化する[1]。胞子嚢を付けない小羽片は全縁から鋸歯縁、または深く切れ込む[2]。胞子嚢をつける小羽片は辺縁に小裂片がある[2]

部分二形を示すカニクサ属 Lygodium
部分二形を示すカニクサ
カニクサの胞子嚢を付けた小羽片
カニクサの胞子嚢を付けた裂片
L. palmatum の胞子嚢を付けた裂片

多くの薄嚢シダ類とは異なり明瞭な胞子嚢群は形成せず、胞子嚢は小裂片(最終裂片)の裏面の脈端に1個ずつ、2列に並んで生じる[2][1][8]

胞子嚢は洋梨[2](左右非対称の卵形[1])で、短い柄がある[2][1]包膜は欠くが辺縁が反転してできた偽包膜と呼ばれる弁に覆われる[2][1][11]。環帯は先端のすぐ下に位置し(頂端性)[1][12]、胞子嚢は縦に裂開する[8]。胞子は四面体型[2]

カニクサ Lygodium japonicum の胞子嚢
胞子嚢を付ける裂片の背軸面の拡大図
偽包膜の下から胞子嚢が見える
偽包膜の下には胞子嚢は1つだけ
胞子嚢を取り出したところ。上の細いところが環帯

配偶体は地上生で緑色をしており、扁平な心臓型の前葉体である[2][8]

分類と系統

サンショウモ科
デンジソウ科
チルソプテリス科
クルキタ科
メタキシア科
ディクソニア科
サッコロマ科
キストディウム科
ロンキティス科
ナヨシダ科
ヌリワラビ科
イワヤシダ科
デスモフレビウム科
ヘミディクティウム科
イワデンダ科
コウヤワラビ科
メシダ科
ヒメシダ科
ディディモクラエナ科
キンモウワラビ科
タマシダ科
ツルキジノオ科
ナナバケシダ科
ツルシダ科
シノブ科

上位分類

本属は、コープランドの分類体系 (1947) などではフサシダ科 Schizaeaceae に分類されていたが、Christenhusz et al. (2011)PPG I 分類体系 (2016)、海老原 (2016) などでは単型科のカニクサ科 Lygodiaceae に置かれる[3][4]

カニクサ科はフサシダ科アネミア科とともにフサシダ目を構成する[1][13]。フサシダ目は属ごとに多様な形態を持つが、胞子嚢が葉の背軸面に単生し、先端付近に環帯がある形質を共有する[14]

フサシダ目

カニクサ科 Lygodiaceae

フサシダ科 Schizaeaceae

アネミア科 Anemiaceae

Schizaeales

L. circinnatum の羽片
L. venustum の羽片

世界の熱帯域を中心として約40が知られる[4][15][2][14]。日本にはカニクサ、イリオモテシャミセンヅルの2種(と1変種)が分布する[15][1][2]。以下、Hassler (2024) による種のリストを示す。

また、カニクサ属は Reed (1947) により OdontopterisGisopterisEu-Lygodium などの亜属に分けられていたが、これは系統を反映していない[14]

カニクサ科 Lygodiaceae M.Roem. (1840)

属内の系統関係

Pelosi et al. (2024) による分子系統解析に基づく種間の系統関係を示す[13]

カニクサ属

L. palmatum

L. hians

L. articulatum

L. microphyllum

L. reticulatum

L. versteegii

L. radiatum

L. heterodoxum

L. circinnatum

L. conforme

L. merrillii

L. longifolium

L. yunnanense

L. salicifolium

L. flexuosum

L. borneense

L. trifurcatum

L. auriculatum

L. polystachyum

L. japonicum

L. venustum

L. lanceolatum

L. kerstenii

L. volubile

L. smithianum

L. oligostachyum

L. cubense

Lygodium


化石記録

Lygodium kaulfussi の印象化石。

中生代後期白亜紀[14]または新生代古第三紀[1]以降、カニクサ属の大型化石が知られている。

後期白亜紀には Lygodium creataceumLygodium bierhorstiana などの種が報告されており、古第三紀からは Lygodium kaulfussiLygodium skottsbergiiLygodium dinmorphyllum などが見つかっている[14]始新世には世界中に広く分布していた[17][注釈 4]。胞子嚢を付けた最初の確実な化石記録は日本の中新世から見つかっている[14][19]

利用

カニクサの葉は乾燥させて胞子を取り、海金沙と呼ばれる利尿薬として用いられる[15][1][2]。イリオモテシャミセンヅルの胞子もカニクサと同様、利尿剤として用いることもある[2]。イリオモテシャミセンヅルの葉を虫刺されなどの民間薬として用いることもある[2]

また、カニクサの蔓状の葉は中軸を用いて編み籠の材料に用いられた[2][15]。また、葉が祭の時の飾りに用いられることもある[2]沖縄県では、ガンシナと呼ばれる鉢巻にナガバカニクサを用いる[20]

脚注

注釈

  1. ^ 実際には数メートル以上伸びることはなく、有限成長性なのか何らかの障害により成長が止まるのかは明らかになっていない[5]
  2. ^ Hassler (2024) では L. circinnatum のシノニムとされたが、Pelosi et al. (2024) による解析でそれぞれ単系統群をなす姉妹群であることが示された。
  3. ^ テガタカニクサの名は Lygodium digitatum に対して与えられているが[16]、これは L. longifolium のシノニムとされる[13]
  4. ^ 例えば、Lygodium kaulfussiアメリカ合衆国ワイオミング州のブリジャー層 (Bridger Formation) 上部始新統から産出している[18]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 海老原 2016, p. 331.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 岩槻 1992, p. 81.
  3. ^ a b c 海老原 2016, pp. 26–27.
  4. ^ a b c PPG I 2016, p. 574.
  5. ^ a b c 長谷部 2020, p. 147.
  6. ^ a b c d e 田川 1959, p. 38.
  7. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 270.
  8. ^ a b c d ギフォード & フォスター 2002, p. 308.
  9. ^ 長谷部 2020, p. 146.
  10. ^ a b 海老原 2016, p. 333.
  11. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 260.
  12. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 266.
  13. ^ a b c Pelosi et al. 2024, p. e16389.
  14. ^ a b c d e f Wikström et al. 2002, pp. 35–50.
  15. ^ a b c d 西田 1997, p. 74.
  16. ^ a b c 許田 & 村上 1991, p. 6.
  17. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 309.
  18. ^ Manchester & Zavada 1987, pp. 392–399.
  19. ^ Matsuo 1963.
  20. ^ 新里 & 芝 2017, pp. 55–63.

参考文献

外部リンク

  • ウィキメディア・コモンズには、カニクサ属に関するカテゴリがあります。



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