オーデル川作戦
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1945年4月中旬、ランガー・アルトホフ中佐が、マクデブルクの基地で、教官のエーリッヒ・クロイルとその教え子たちの若いパイロットを集めて、「諸君らが自ら志願して祖国防衛の陣列に立つときが来た。詳しくは言えないが、これは特別攻撃である。だれか名乗り出る者はいないか?」と志願を募った。かつて「ゾンダーコマンド・エルベ」に志願したこともあったクロイルであったが、アルトホフの頭ごなしの態度に反感を抱き、手を挙げなかったところ、教え子たちも手を挙げなかった。その様子を見たアルトホフは顔を真っ赤にしながらヒステリックに「祖国を守る気のある者が諸君のなかにはいないのか!」とがなり立て、次第に罵倒する勢いとなったので、クロイルは「特別攻撃」の中身はわからないものの、若いパイロットたちの手本にならなければと手を挙げて「私が志願します」と志願すると、アルトホフは安堵の表情を浮かべた。教官のクロイルが志願したことで、困惑していた教え子のなかで3名も志願した。クロイルは、志願した教え子たちはようやく教習課程を終えるレベルの技倆しかなく、普通の実戦でも無理があるのに、まして「特別攻撃」はなおさらと不安を抱いたが、「ゾンダーコマンド・エルベ」と同じであれば、パラシュートで脱出すれば生還できる可能性もあると不安を払拭した。 クロイルと教え子3名はベルリンから南に約50kmのユターボク基地に移動させられたが、ここには他にも「特別攻撃」に志願したパイロットが集結していた。1945年4月16日、ソ連軍はオーデル川に達し、渡河作戦を開始しようとしていたが、オーデル川を突破されればベルリンまでは一直線であり、いよいよ進退窮まったドイツ軍は「オーデル川作戦」を開始することとした。ユターボク基地に集められたパイロットは10名が1グループとして編成されていたが、クロイルらのグループはソ連軍が渡河作戦を開始した翌日の17日に士官食堂に集合させられ、指揮官より「今や敵の軍団はオーデル川を越え、ベルリンに押し寄せつつある。敵はオーデル川に橋をかけ、続々と後詰めを送り出しているところだ。この補給路を遮断しなくてはならない」と訓示があり、その後、各パイロットに攻撃目標が書かれた紙と航空写真が配られたが、クロイルの目標は浮き橋であった。さらに指揮官は「諸君らの機には500kgの“特殊爆弾”が搭載されている。それをもって“自己犠牲攻撃”を敢行して欲しい」との説明があった。クロイルらは“自己犠牲”の意味がわからず、そんな重い爆弾を戦闘機に搭載すれば、燃料は満足に積めないため帰ってこれないし、指揮官は冗談でも言ってるのかと思って「最初の攻撃で失敗したら、もう1度出撃しましょうか」と苦笑いしながら尋ねたところ、冗談どころか指揮官が声を荒らげて「2度目はない。これは“自己犠牲攻撃”なのだ。私はそう言ったはずだ!」と言い放った。ここでクロイルらはようやく自分たちが志願した「特別攻撃」が、実はパラシュートで脱出することができない、生還の可能性が全くない“自殺攻撃”であることを知った。 4月17日19時、クロイルたちは、残る戦友たちの軍歌に送られて出撃した。500kg爆弾を搭載したMe 109は次々と離陸すると、高度を6,000mまで上げてオーデル川に向かったが、護衛として2機のメッサーシュミット Me262が付き添った。やがて、目標の浮き橋が近づくと、地上はベルリンへ押し寄せるソ連軍で埋め尽くされていたが、ソ連軍が激しい対空砲火を浴びせてくる中でクロイルは、大した戦果も見込めないこのような任務で“自殺攻撃”するのが馬鹿馬鹿しくなって、爆弾を投下すると帰還することにした。しかし、このまま帰還すれば命令違反か敵前逃亡で処刑されるのは間違いなかったので、なるべく出撃したユターボクから離れたところまで飛行し、燃料が尽きたところでパラシュート脱出し、その後、数日かけてエルベ川まで歩いてアメリカ軍の捕虜となった。 結局、4月16日と17日の2日間で36機のMe 109が失われたが作戦は失敗し、17の橋梁を破壊したとドイツ軍は判断していたが、効果は限定的なもので、赤軍の進撃を止めることはできなかった。「オーデル川作戦」がどのように作戦策定され実行されたか、詳細は不明であるが、結局作戦は戦局に何ら寄与することなく、作戦が実行された2週間後の4月30日に、ベルリンの総統地下壕でヒトラーが自決し、5月8日にはドイツが無条件降伏している。
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