エンテ型とカナードの力学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 00:28 UTC 版)
「エンテ型」の記事における「エンテ型とカナードの力学」の解説
固定翼機のピッチ(機首)の上下方向のバランスの取り方には、以下の方法がある。 主翼を重心より後方に配置し、さらに後方の水平尾翼が下向きの揚力を生んでバランスを取る(一般的な方法)。 主翼の大部分はプラスの揚力を発生するが、主翼の後部(後縁部、あるいは後退翼なら外側)が下向きの揚力を生む(無尾翼機)。 重心の前後にある2枚の主翼の揚力でバランスをとる(タンデム翼機)。 主翼が重心の前に位置し、水平尾翼もまた上向きの揚力を生む。(揚力尾翼機)。 主翼を重心より後方に配置し、それより前方の水平尾翼(カナード)が上向きの揚力を生んでバランスを取る(エンテ型飛行機)。 このうち1.が一般的なのは理由がある。これは、風見安定を得るために、空力を受ける中心(力点)が重心より後ろにあることが必要だからである。1.の方式であれば主翼・尾翼ともに重心より後方に位置する。それに対して4.の場合は、むしろ空力中心が重心より前に位置するため、機体は極めて不安定となり、一般的ではない。 本項で解説しているエンテ型も、空力中心は総合的に重心より後方である。ただし主翼は重心より後方だが水平尾翼が重心より前方となり、主翼・水平尾翼ともに重心より後方に位置する通常形式よりも安定性は低くなる(後述)。 また1.と5.の併用、つまり通常の水平尾翼とカナードの双方を持つ機体もある(三翼式)。あるいは2.と5.の併用、つまり主翼自体でバランスを取りながらカナードを付加する場合もある。 ただし、20世紀末以降カナードつきデルタ翼の場合は、前翼は揚力を発生しない、あるいは前翼の揚力によるバランスは副次的である場合が多い。これはデルタ翼は上記2の無尾翼機に適した翼形であり、無尾翼機にカナードを付加した場合が多いからである。また最近の趨勢である運動能力向上機 (CCV) の場合はピッチ方向の安定性を下げる設計を行っているため、カナードが発生する揚力を下げるか無くす(主翼の位置を重心に近づける)設計を行っているからである。このようにニュートラルな状態では揚力を生まず、主に姿勢制御に使われる前翼を制御カナードという。特に、元来はカナードを持たない設計の機体に、後から改設計でカナードを付加した場合、制御カナードとなるのは自明である。ただし、揚力や空力中心は速度によって変化するため、あらゆる速度領域で揚力を生まない前翼は存在しない。つまり、制御カナードは揚力を得ることを主目的としているのではないだけであって、全く揚力を生まないというわけではないということである。それに対して従来の揚力を発生するカナードは、揚力カナードと呼ばれる。 制御カナードは、全体が昇降舵のように可動するオールフライング方式も多く、水平尾翼の代替というより、無尾翼機において主翼に取付けられるべき昇降舵を独立させたものとも言える。JAS39のように、カナードを地面に垂直に近く立てることによってエアブレーキを兼ねる設計のものもある。無尾翼機においての昇降舵は主翼の揚力を減じる効果があり、これが欠点のひとつとされるが、昇降舵を主翼から切り離す事でこの欠点が回避できる。 前尾翼・カナード翼は、上述の通り通常の水平尾翼を主翼の前方に配置したものである(揚力の向きは逆であるが)。一方、垂直尾翼は、エンテ型でも通常どおり機体尾部にあることが多い。もちろんこれは、ヨー方向の風見安定のためには、垂直尾翼は必ず重心よりも後方に配置すべきだからである。ただし、CCV実験機の中には、垂直尾翼に加えて重心の前にも垂直カナードを持つ機もある。サイドワインダー (ミサイル)やR-8 (ミサイル)等のミサイルは、航空力学的には垂直カナードを持つ(飛行姿勢によってはX字カナードの)エンテ型飛行機である。
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