ウツクシマツの樹形と遺伝様式
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「平松のウツクシマツ自生地」の記事における「ウツクシマツの樹形と遺伝様式」の解説
平松のウツクシマツ自生地 大津市 平松のウツクシマツ自生地の位置 平松のウツクシマツ自生地は滋賀県南部、湖南市平松地区の小高い丘陵地にある美松山(びしょうざん、標高227メートル)の南東側斜面にあり、標高180メートルから225メートルにかけた山腹斜面の約1.89ヘクタールが国の天然記念物に指定されている。この場所はJR草津線甲西駅の南方を東西方向に走る旧東海道から南西側の美松山方面へ1キロメートルほど登った、丘陵地を造成した新興住宅地に隣接した位置にある。 ウツクシマツはアカマツの変種で、葉型や樹皮は通常のアカマツとほぼ同じであるが、根元に近い位置から複数本に分かれた幹が上方へ高く伸び、上部の樹冠全体が傘を広げたように見える珍しい樹形をしている。高さは約7 - 10メートル、幹囲は2.5 - 2.8メートルほどのものが大半を占めており、中には樹高15メートルに達する個体もある。なお、樹形が類似するものに多行松(タギョウショウ)があるが、これは接ぎ木による園芸品種であり、新宿御苑や兼六園などの公園や庭園に植樹されているが、樹高が高く成長するウツクシマツと異なり、高さは5メートル未満の低木がほとんどである。 平松のウツクシマツの樹形には、いくつかのバリエーションがあり、湖南市教育委員会が作成した現地解説板によれば、 扇型(上方山形) 根元から約1.5 - 2メートル付近で複数の幹に分岐し扇状になり、樹冠上部が山形になっているもの。 扇形(上方やや円形) 1.と同型で樹冠上部が丸みがかったもの。 傘型 地表付近から幹が多数分岐し、樹冠が傘状に広がったもの。 ホウキ型 幹の分岐は3.と同じであるが、樹冠の広がりが狭いため全体的に箒状に見えるもの。 以上の4タイプに分類されている。 このような樹形になる要因は長らく不明で、当地の土質が砂礫の混ざった赤土で、一部には岩盤が露出するような層の浅い土壌の影響などが考えられてきたが、確定的なものは無いままであった。 滋賀県庁の出先機関である滋賀県森林センターでは、平松のウツクシマツの遺伝様式を解明するため1973年(昭和48年)より研究を開始した。 まず最初に、自生するウツクシマツから採種して育てた複数の実生木(第1世代、F1、雑種第一代)は、普通のアカマツとウツクシマツの2種類に分かれた。これらを用いて人工交配を行い第2世代(F2)以降の交配検証を重ねた結果、第2世代以降の個体には、普通のアカマツのもつ「主幹1本だけを伸ばす機能」が崩れた遺伝子が含まれており、独特の樹形をもつ要因は劣性遺伝によるものであることが判明した。 人工交配試験 1親ウツクシマツウツクシマツ子ウツクシマツ(100%) 人工交配試験 2親ウツクシマツアカマツ子アカマツ型F1(100%) 人工交配試験 3親アカマツ型F1アカマツ型F1子ウツクシマツ(25%) アカマツ型F2(75%) 人工交配試験 4親アカマツ型F1ウツクシマツ子ウツクシマツ(50%) アカマツ型F2(50%) 以上の結果、 ウツクシマツ同士を交配すると、その子は100%ウツクシマツ。 ウツクシマツと普通のアカマツを交配すると、その子は100%アカマツ (F1)。 アカマツ型F1同士を交配すると、その孫は25%がウツクシマツ、75%がアカマツ 。 これらの事実が2002年(平成14年)に突き止められ、ウツクシマツの樹形はメンデルの法則にしたがって劣性遺伝することが証明された。 マツは数十年かけ成長するため、第1世代第2世代と続く交配研究には数十年単位の長期間が必要であり、ウツクシマツも全てがその形状に育つのではなく、その見極めには7年ほどかかるため、滋賀県森林センターは1973年の調査開始から30年弱をかけて解明したことになった。ウツクシマツの遺伝様式が劣性遺伝であったことは、後述する松くい虫に対する抵抗性を高める研究に有用な知見となった。
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