「人民」と「国民」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 02:35 UTC 版)
「人民」と「国民」は、意味が区別される。国籍と無関係な概念が「人民」、ある国の国籍を持つ者が「国民」である。 エイブラハム・リンカーンが1863年に行った「ゲティスバーグ演説」に民主主義の本質を語ったものとして世界的に知られる「人民の人民による人民のための政治(government of the people, by the people, for the people)」という有名な一節があるように、本来「人民」の語は民主主義の主体を示す用語として用いられた。20世紀前半以降、共産主義運動や共産諸国家では、国際共産主義の立場から「国民」(nation)よりも「人民」(people)を好んで用い、そのため本来の語義を離れて「人民」という言葉に、共産主義のイメージが感じ取られる場合が多くなった。特に毛沢東時代の中国共産党において人民とは、国民から漢奸や反革命分子を除いた階級の人々を指すやや狭い概念であった。そこには黒五類や臭九類などと呼ばれた、反革命階級出身者(成分)への敵視があった。 日本の左翼勢力は、戦前から「人民」の語を用いていたが、おおむね1930年代前半まではさほど頻繁にではなかった。しかし、1930年代、特に後半となると、それぞれ封建主義・ファシズムの含みもある「臣民」・「国民」の概念を脱却するべく「人民」の呼称を積極的に用いた。また、終戦後にそれまで弾圧されていた左翼勢力が解放されると、「人民共和政府」「人民大衆」「人民闘争」など左翼的・階級的な「人民」を含む表現が多用されるようになった。しかし暴力闘争路線が市民多数派に敬遠されるようになると、議会主義路線の左翼政党は極左的な印象を避けるべく人民という言葉の使用を控えるようになった。 上の経緯から現代日本では通常は「人民」という言い方は避けられ、「国民」という言葉が用いられる。日本の政党・政治団体で、少なくとも国会に議席を有するものでは、人民を党名にかぶせたり、政策に人民という語を使うことはほとんど無い(日本人民党、沖縄人民党が議席を獲得した希少な例である。ただし、日本人民党は右翼政党であり、二重の意味で希有と言える)。また、国民新党の英語名称はThe People's New Partyであり、直訳すれば「人民新党」となる。しかし、日本語名称で「人民」は使っていない。
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