宣戦布告とは? わかりやすく解説

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宣戦布告

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/13 18:34 UTC 版)

宣戦布告とは、ある国が他国と「戦争状態にある」ということを意志表示することです。あるいは、「宣戦」、「開戦宣言」、「戦争宣言」という場合もあります。 宣戦布告が行なわれた後で国家間が武力を使って争うことを通例では「戦争」といいますが、宣戦布告がないまま武力を使う争いを「事変」や「紛争」といいます。  ある国が他国に対して宣戦布告を行なった時点で、両国は「交戦国」と呼ばれ、国際法上の「交戦状態」あるいは「戦争状態」に入ったと見なされます。その際、戦争に参加せず、さらにどの交戦国に対しても援助を与えない国のことを「中立国」といいます。 この為、実際の宣戦布告はその語感とは異なり原因となる武力衝突の前に成されることは希で、先に武力衝突が生じた後に成される事が歴史的に慣習化している。

概要

宣戦布告とは、相手国や中立国に対し、戦争状態に入ることを告知することである。無条件のものを宣戦布告と言い、条件付きのもの(期限までに何々をしなければ戦争を開始するというもの)を最後通牒と言う。「開戦に関する条約」により、宣戦布告(または最後通牒)は戦争行為の開始前に行わなければならない。宣戦布告により、当事国は交戦国となり、それ以外の国は中立国となる。中立国は、陸戦中立条約、海戦中立条約により、参戦しないのであれば、中立を保つ義務(一方の交戦国に便宜を供与しない義務)を負う。

この外交通告の習慣はルネサンス時代に始まったが、1904年日露戦争が宣戦布告なく始められたこと(2日前にロシアに対して最後通牒していたので問題はないと中立国の中ではされていた)を契機に1907年万国平和会議で討議され[1]、10月18日に署名された「開戦に関する条約」で初めて国際的なルールとして成文化された。この条約で宣戦布告の効力は相手国が受領した時点で発生すると定められた。しかし当時はほとんど尊重されず、第一次世界大戦後に国際連盟が改めて定めた。

宣戦布告が行われない国家間の武力紛争においては、通告を受けない第三国に中立法規の適用はなく、第三国は紛争当事国と平時同様の外交関係を保つことが認められる。国交断絶状態でも戦争と判断されるとは限らない。第一次世界大戦後には高度な武力紛争状態であっても、戦争状態ではないとして戦時国際法の適用を免れようとする事例もしばしば存在した。

開戦に関する条約」は第三条に総加入条項(条約の非締約国が一国でも参戦すれば、そのときから交戦国たる締約国相互間にも条約が適用されなくなるという趣旨のもの[2])が規定されており、イタリアはこの条約に署名したものの批准しておらず、第二次世界大戦に関わる各国の宣戦布告状況は非常に複雑なものとなった。第二次エチオピア戦争では正式な宣戦布告は行われなかった。

第二次世界大戦では多くの国家間で宣戦布告が行われたが、この時期に多くの戦線で戦端の口火を切ったナチス・ドイツはほとんどの戦線において正式な宣戦布告なしに開戦を行っている。また大日本帝国日中戦争支那事変)では宣戦布告を経ていない。対米英宣戦布告真珠湾攻撃マレー作戦開始の後だった。

1945年10月24日に発足した国際連合では、その憲章第2条第3項、第4項において加盟国間での戦争そのものを実質的に禁止すると共に、憲章第51条において武力攻撃を受けた加盟国が個別的自衛権もしくは集団的自衛権を発動した場合の国連安全保障理事会への報告義務を課すことにより加盟国の間での宣戦布告なき戦争を実質的に根絶しようとした。

個別的自衛権集団的自衛権、いずれを発動した場合も、相手国(組織)への宣戦布告および国連安全保障理事会への報告さえあれば正当な武力行使と内外に認定されるわけでは全くない。国際的には憲章第29条による国際戦犯法廷や国際司法裁判所(ICJ)によって開戦理由の正当性や戦争犯罪人が審判されることとなる(e.g. 旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷ルワンダ国際戦犯法廷ニカラグア事件)。

なお、その武力行使の正当性について相手国から宣戦布告が行われたためと相手国に責任転嫁しようとする事例が存在する。エチオピア・エリトリア国境紛争では、紛争勃発後の1998年に行われたエチオピア側のエリトリア非難をエリトリア側が「エチオピア側の宣戦布告」であると宣言し、エチオピア領内に侵攻した事例がある。しかし、両国の外交関係は継続しており、エチオピアのエリトリア非難を宣戦布告と認めた国や機関は皆無であった[3]。同様に、2012年の南スーダン・スーダン国境紛争においては、南スーダン共和国大統領サルバ・キール・マヤルディスーダン共和国(北スーダン)側から宣戦布告が行われたと責任転嫁発言を行った[4]

また、外交的駆け引きのために相手国の言動を「事実上の宣戦布告」と宣言するような事例もある。例えば、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、2009年に南朝鮮(大韓民国の北朝鮮での呼称)のPSI全面参加を宣戦布告と見なすと声明[5]を出したほか、2017年9月にもアメリカ合衆国ドナルド・トランプ大統領ツイッターでの発言を、北朝鮮の李容浩外相が宣戦布告であると言及する[6]など、相手国民を困惑させる「瀬戸際外交」をしばしば展開している。

第二次世界大戦後の宣戦布告による戦争

戦争 開戦日 宣言内容 交戦勢力 終戦日 参考
文献
宣言側 相手側
第一次中東戦争 (1948–49)
第二次中東戦争 (1956)
第三次中東戦争 (1967)
消耗戦争 (1967–70)
第四次中東戦争 (1973)
1948年5月15日 宣戦布告  エジプト
 ヨルダン
シリア
 イラク
 レバノン
 イスラエル エジプト: 1979年3月26日
ヨルダン: 1994年10月26日
シリア: 戦争中
イラク: 戦争中
レバノン: 戦争中
[7]
オガデン戦争 1977年7月13日 宣戦布告  ソマリア エチオピア 1978年3月15日
ウガンダ・タンザニア戦争 1978年11月2日 宣戦布告  タンザニア  ウガンダ 1979年6月3日 [8]
イラン・イラク戦争 1980年9月22日 宣戦布告 イラク  イラン 1988年7月20日 [9]
フォークランド紛争 1982年5月11日 宣戦布告
(戦争地帯の存在を宣言)
 アルゼンチン  イギリス 1982年6月20日 [10]
パナマ侵攻 1989年12月15日 戦争状態が存在  パナマ  アメリカ 1990年1月31日 [11]
エチオピア・エリトリア国境紛争 1998年5月14日 戦争状態が存在  エチオピア  エリトリア 2000年12月12日 [12]
チャド内戦 (2005年-2010年)英語版 2005年12月23日 戦争状態が存在  チャド  スーダン 2010年1月15日 [13]
ジブチ・エリトリア国境紛争英語版 2008年6月13日 戦争状態が存在  ジブチ  エリトリア 2010年6月6日 [14]
南オセチア紛争 (2008年) 2008年8月9日 宣戦布告
(戦争状態を宣言)
 ジョージア  ロシア 2008年8月16日 [15]
南北スーダン国境紛争 (2012年) 2012年4月11日 戦争状態が存在  スーダン  南スーダン 2012年5月26日 [16]
シナイ反乱英語版 2015年7月1日 戦争状態が存在  エジプト ISIL 2023年1月25日 [17]
2023年パレスチナ・イスラエル戦争 2023年10月7日 宣戦布告
(戦争状態を宣言)
 イスラエル ハマース 進行中 [18][19]

日本における宣戦布告

大日本帝国憲法第13条で「天皇ハ戰ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ條約ヲ締結ス」と規定しており、天皇大権の一つであった。

大日本帝国憲法下では4回の戦争(日清戦争での対清宣戦布告、日露戦争での対露宣戦布告、第一次世界大戦での対独宣戦布告、第二次世界大戦での対英米宣戦布告)において宣戦布告が行われた[20]

日本国憲法には宣戦布告に関する規定はない。

アメリカにおける宣戦布告

アメリカ合衆国憲法では、第1条8節11項にて宣戦布告権が規定されている。宣戦布告には連邦議会の承認が必要であり、大統領が単独で発することはできない[21][22]。実際にアメリカ合衆国が正式に宣戦布告を行ったのは憲法制定以後1812年戦争米墨戦争米西戦争第一次世界大戦第二次世界大戦の5回である。

1960年代に激化したベトナム戦争では、アメリカは宣戦布告が行われないまま軍を投入し続けた。このため、戦争の合法性に関する裁判がいくつも提起されたが、アメリカの連邦最高裁は審理もしないまま却下し続けた。しかし1970年4月1日マサチューセッツ州議会で「同州の市民は宣戦布告をしない戦争には参加しなくともよい」との趣旨の州法が可決、翌日には発効することとなったため、州当局は州法の発効には連邦最高裁の同意が必要として上告を行った。同年11月9日に開かれた連邦裁小法廷では、判事9人のうち6人が州法の発効に反対する票を投じて否決された[23]

脚注

出典

  1. ^ Convention (III) relative to the Opening of Hostilities. The Hague, 18 October 1907.”. ICRC databases on international humanitarian law. 赤十字国際委員会. 2014年8月29日閲覧。
  2. ^ 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)「総加入条項」[1]
  3. ^ 根本和幸 2007, pp. 178–179.
  4. ^ 「スーダンが宣戦布告した」 訪中の南スーダン大統領
  5. ^ 南朝鮮のPSI全面参加 「戦時に相応する措置とる」祖平統、人民軍板門店代表部が声明 朝鮮新報
  6. ^ 北朝鮮外相、「トランプ氏が宣戦布告」と主張 米報道官は否定 CNN(2017年9月26日)2017年9月27日閲覧
  7. ^ Michael Oren (2003). Six Days of War. New York: Random House Ballantine Publishing Group. p. 5. ISBN 0-345-46192-4 
  8. ^ Kamazima, Switbert Rwechungura (2004). Borders, boundaries, peoples, and states : a comparative analysis of post-independence Tanzania-Uganda border regions (PhD). University of Minnesota. p. 167. OCLC 62698476
  9. ^ Robert Cowley (1996年). “Iran-Iraq War”. History.com. 2019年6月5日閲覧。
  10. ^ “The Battle over the Falklands”. BBC News. (1998年). http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/199850.stm 2019年6月5日閲覧。 
  11. ^ Theodore Draper. “Did Noriega declare war?”. New York Review of Books. 2019年6月5日閲覧。
  12. ^ BBC staff (6 June 1998). “World: Africa Eritrea: 'Ethiopia pursues total war'”. BBC Monitoring service. http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/africa/107985.stm 
  13. ^ “Call to ease Chad-Sudan tension”. BBC News. (25 December 2005). http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/4559254.stm 
  14. ^ “France backing Djibouti in 'war'”. BBC News. (13 June 2008). http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/africa/7453063.stm 
  15. ^ Peter Walker. “Georgia declares 'state of war' over South Ossetia”. The Guardian. 2019年6月5日閲覧。
  16. ^ Scott Baldauf. “Sudan declares war on South Sudan”. Christian Science Monitor. 2019年6月5日閲覧。
  17. ^ Egypt Officially Announces ‘State Of War’”. Egyptian Streets (1 July 2015). 1 July 2015閲覧。
  18. ^ https://twitter.com/israelipm/status/1710988418585423898?s=12&t=sGmIJHuONOeIEExPXVi69Q”. X (formerly Twitter). 2023年10月8日閲覧。
  19. ^ 死者双方で1100人超に イスラエルはハマスに宣戦布告”. AFPBB News. 2023年10月9日閲覧。
  20. ^ 倉山満 2018, p. 215.
  21. ^ アメリカ大統領の役割と権限-実は議会が強い? The Capital Tribune Japan 2017年10月7日閲覧
  22. ^ ニュルンベルク裁判中のゲーリング空相とギルバート心理分析官とのやり取りより
  23. ^ 米最高裁が却下 マサチューセッツの反戦訴訟『朝日新聞』1970年(昭和45年)11月10日朝刊 12版 23面

参考文献

  • 根本和幸「判例研究 エリトリア・エチオピア武力行使の合法性に関する事件[エリトリア・エチオピア請求権委員会・Jus Ad Bellum (Ethiopia's claims 1-8)部分裁定 (2005.12.19)]」(PDF)『上智法学論集』51(2)、上智大學法學會、2007年、pp.173-187、NAID 40015758789 
  • 倉山満『明治天皇の世界史』PHP新書、2018年。ISBN 9784569841571 

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外部リンク





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